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冠動脈疾患における性差・女性の注意すべきこと

動脈硬化性心血管疾患の発症は心筋梗塞、脳梗塞などは年代をとわず男性の発症率が高いことは知られています。(高齢者では発症率の差は減少傾向にはなりますが)一方女性で発症率が高い冠動脈疾患があることも事実です。
今回は女性で発症率が高いあるいは考慮を要する冠動脈疾患・それに対する投与薬物・合併症・発症の二次予防について解説します。冠動脈に閉塞を伴わない心筋梗塞(MINOCA)は閉塞を伴う心筋梗塞(MIOCA)とくらべ女性の割合が有意に高いとの諸外国からの報告は認められます。生命予後は発症から1年後の死亡率に男性・女性に有意な差はないと報告されており、またMINOCAの原因疾患によりその生命予後は異なるとされています。冠動脈に閉塞を認めない心筋虚血(INOCA)においても女性の発症率が男性より高いことが示唆されています。またINOCAの全死亡などの生命予後には男女差は認めなかったとの大規模な研究報告があります。つまりMINOCAもINOCAも女性の発症率が高いことが示唆されますが、性差だけでなく、年齢差、人種による差などについても研究段階であり、諸外国を含めさらなる研究報告が持たれるところです。冠動脈疾患(急性冠症候群(ACS)、慢性冠症候群(CCS))で経皮的冠動脈形成術(PCI)後の出血リスクは、抗血小板薬(血液をさらさらにする薬)の内服下で急性期では女性で出血事故が有意に増加しています。
一方PCI後慢性期の出血リスクに関しては女性はACS患者さん、CCS患者さんともに海外の各研究で出血合併症のリスク因子とはなっていません。PCI後には血液をさらさらにする薬を患者さんに服用していただきますが、その薬と服薬期間について男女で有効性と安全性に性差があることを示す証拠はなく、男女で薬の種類や服薬期間は同等とすることが推奨されています。ただしこれらの薬を服用する場合、日本人女性の冠動脈疾患患者さんは高齢・低体重・腎機能障害・貧血など出血リスクがある人が多く、したがってこれらのリスクに応じて摂取期間や量に留意する必要はあります。女性の心筋梗塞で左心室の壁(自由壁)破裂(LVFWR)、心室の中隔の破裂(VSR)または心室の中隔の穿孔(VSP)、心室の乳頭筋の破裂(PMR)などの機械的な合併症は男性の1.5倍以上あると報告されており重要な問題です。(機械的合併症は発症率は最近ではPCI後2%以下まで低下してきているが、それによる院内での死亡率は30〜90%と依然として高い)さらに近年米国でおこなわれた研究では心筋梗塞の院内死亡率が女性で男性より高い発症形態のある群が存在する事が報告されており、心原性ショックを伴った場合も、女性で有意に死亡率が高いことも報告されています。したがって女性の心筋梗塞に伴う機械的合併症には注意が必要です。
また女性の心筋梗塞におけるもう一つの注意すべき合併症として、周術期の出血性合併症があげられます。これに関しては院内の出血性合併症では、女性のほうが男性より約1.7から3倍発症率が高いことが報告されており、わが国においても同様に女性の出血性合併症の発症率が高いことが報告されています。したがってこの事に関する注意は必要です。冠動脈疾患の二次予防は重要です。喫煙ではPCI施行歴のある女性の喫煙者で男性より心血管疾患の発症率が高いことが報告されています。禁煙により、心血管疾患の発症リスクは2年以内に男女とも低下しはじめますが、喫煙継続者と禁煙者では、男性よりも女性で大幅に相対リスクが減少するため、女性においては禁煙は特に重要と考えられます。糖尿病は喫煙と同じく、女性において男性より冠動脈疾患の発症リスクの上昇と関連することがわかっており、その良好なコントロールは重要となります。冠動脈疾患に対して、脂質代謝異常改善薬(スタチン)の服用により、心血管疾患の発症は男女ともに有意に低下し、その性差はなかったとする研究の解析があります。
スタチン以外の脂質代謝異常改善策の服用による冠動脈疾患の二次予防効果には性差はないとの報告もあります。
しかし脂質異常症以外の心血管リスクのない女性ではスタチン服用を中止することがしばしばみられます。このことはその後の生命予後に関連があると考えられ、服用継続は重要です。運動療法も冠動脈疾患の二次予防においては重要です。心筋梗塞後の運動療法中心の心臓リハビリテーションにより全死亡率は男女ともに低下するが、女性では男性とくらべより顕著であったとの報告があります。しかし心臓リハビリテーションへの参加の割合は女性は男性より少ないとされています。これは女性は自身の健康問題を重要視しないことやモチベーションの低さ、恐怖心などより参加を控える傾向があるためと推察されています。ただし女性は家族や友人のすすめなどの精神的サポートを尊重する傾向があり、家族や友人の呼びかけは心臓リハビリテーション参加への解決策となる可能性はあります。
以上、今回は冠動脈疾患における性差 特に女性が注意するとこに焦点をあてて解説しました。