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心房細動 その包括的管理

心房細動は、高齢者のみならず高血圧や生活習慣病を有する中高年層に多く、血栓塞栓症、脳卒中、心不全などの合併症を引きおこします。2050年にはわが国の心房細動の人は約103万人、総人口の約1.1%を占めると予測されています。
心房細動の有病率の上昇は、社会の高齢化および危険因子や併存疾患の増加によってもたらされ、心房細動が引きおこす合併症は、医療資源の不足や医療費上昇の原因となっているのです。これらを是正するために、@心房細動の早期診断A個々の心房細動の人の特性の把握B包括的な管理というアプローチが必要です。@心房細動の診断は心電図記録による診断が基本となります。Aは個々の心房細動の人の脳梗塞のリスク、症状の程度、発作性か持続性かを含めた心房細動の持続時間、心房細動を発症・進展させる原因となる心筋の状態や心血管系の危険因子を評価することです。B心房細動の人の併存疾患および生活習慣を踏まえた総合的な治療介入をおこなうことです。Bに関しては心房細動の人の急性期・慢性期の管理として現在4段階の治療ステップ(第1段階:急性期の管理、第2段階:増悪因子の管理、第3段階:脳梗塞リスクの管理、第4段階:症状の改善)が提唱されています。今回はこの4段階の治療ステップについて概説します。
第1段階:急性期の管理・急性期には適切な心拍数の調節または正常な洞調律の維持(心電図上期則正しい心拍数の調律)をおこない、血行動態を安定化させます。血行動態が破綻している場合は、緊急に電気的な除細動をおこなって洞調律化を図ります。
第2段階:増悪因子の管理。併存疾患を適切に治療し、食生活習慣を改善することで、心房細動の発症および進行に関連する心血管イベントのリスクを減少させることです。心房細動の人における合併症の発症には併存疾患(高血圧、心不全、冠動脈疾患、糖尿病、睡眠時呼吸障害など)の存在、および好ましくない生活習慣(肥満、喫煙、過度のアルコール摂取、身体活動不足など)が大きく関係しています。第2段階ではこれらの併存疾患・生活習慣の特定と適切な管理が含まれます。たとえば、体重減少、禁煙、過度のアルコール摂取量の削減、定期的な身体活動などの修正可能な危険因子を改善することによって、心房筋のリモデリングの抑制、心房細動の再発の抑制をもたらします。これに関する研究では、発症1年以内の持続性心房細動を有する人に上記の増悪因子に含まれる要因に対する包括的な標的治療の介入をおこなったところ、おこなわなかった人と比較して洞調律持続率が有意に高かった一方、カテーテルアブレーション術後の心房細動の人に対して積極的な血圧低下をおこなった研究では、心房細動再発を抑制する効果は認めなかった、などの報告があります。このことは心房細動の再発抑制と予後改善目的には、単独の危険因子の是正ではなく、包括的な改善が必要であることを示唆しています。第3段階:脳梗塞の予防。脳梗塞の予防は脳梗塞のリスクを評価し、高リスクの人には経口抗凝固薬を服用してもらい、それによって脳梗塞を予防することです。心房細動は脳卒中の発生リスクを約5倍に高めます。以前は心房細動が発作性の発症であっても持続性であっても血栓塞栓症のリスクは同程度と認識されていましたが、近年持続性心房細動は発作性心房細動よりもリスクが高いことが明らかになってきました。最近の研究では持続性は発作性と比較して約1.4倍の脳梗塞の発症と関連するとされており、我が国においても持続性/永続性心房細動は、脳梗塞発症の対立した危険因子とされています。抗凝固薬の内服は心房細動の人の心原性脳梗塞(心臓が原因で発症する脳梗塞)発症と死亡のリスクを低減します。経口抗凝固薬には、ビタミンK拮抗薬と直接的経口凝固薬(DOAC)があります。脳薬の簡敏性、効果の安定性、食事や他の薬剤との相互作用の少なさ、頭蓋骨内出血の少なさなどからDOAC内服は望ましく、ビタミンK結抗薬はDOACが内服できない場合の服用に努めるべきとされています。一方出血リスクがきわめて高い人や長期的な抗凝固療法が必要ではあるが、出血リスクが高く抗凝固療法が適切でない人においても内服薬(DOAC)の減量や血管内治療などがおこなわれ優功性が確認されています。第4段階:症状の改善。洞調律持続(リズムコントロール)および適切な心拍数調節(レートコントロール)をおこない、症状の改善をはかります。リズムコントロールによる洞調律への復帰・維持(抗不整脈薬・カテーテルアブレーションなど)は心房細動の症状に加え、運動能力とQOL(生活の質)の向上、左心室の収縮能の改善、左心房の縮小、入院の減少にも有効となります。近年の心房細動に対するカテーテルアブレーションの研究では左心室の収縮能低下した心不全を合併した心房細動に対してカテーテルアブレーションによるリズムコントロールは薬物治療によるレートコントロールに比較して全死亡、心不全による入院を有意に抑制しています。
ここでリズムコントロールが望ましいと考えられる人を示します。@症状(動悸、眼前暗黒感、胸部不使感など)があり、A心房細動が持続することで、心不全の発症・増悪が危惧されるB心房細動発症関連の併存疾患が比較的少ないC左心房が高度に拡大していない、心房筋のリモデリングが軽度であるD患者さんがリズムコントロールを希望する
これらの人に対してはカテーテルアブレーションや抗不整脈薬を用いたリズムコントロールを積極的に考慮します。年齢に関しては75歳未満の心房細動の人ではリズムコントロールによる改善効果はあるがそれより高齢になるにしたがって改善効果は減少するとの報告があり、一応の留意は必要となります。しかし全体的には少なくとも発症早期の心房細動の人においては、症状、QOLの改善のためにリズムコントロール療法を考慮することは推奨されます。一方レートコントロールは洞調律を維持することが困難と考えられる持続性および永続性心房細動の人がおもな対象となり、心房細動の心拍数を適切にコントロールすることで動悸や心不全の発症・増悪を予防することを日的におこなわれます。
以上、今回は心房細動の包括的管理(生活習慣修正を含む)について概説しました。