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心不全 臨床的特徴・病態・生命予後の性差

世界的な高齢化とともに、心不全の人の増加は続いており、現在心不全パンデミックともよばれています。
この心不全の病態・臨床的特徴に男女による性差はあるのでしょうか?今回はそれに関して概説します。昨今の種々の心不全の人のその背景となる因子や併存疾患を男女で比較した研究によると、心不全の女性は男性より高齢で高血圧症、弁膜症、貧血、腎機能障害などを多く合併していることがわかっています。そして基礎心疾患としては冠動脈疾患が少なく弁膜症が多いという特徴を有しています。また女性は乳がんなどの悪性腫瘍の治療で使用される薬で誘発されるリスクがある心筋症や周産期の心筋症などによる心不全症も多く、これらの二次性心筋症に対する注意も必要とされています。
自・他覚所見では夜間の発作性呼吸困難は男性で多く、NYHA心機能分類(身体活動にもとづいた心機能の分類)や下腿浮腫、頸静脈の怒張(心不全により頸部の静脈が腫大すること)には男女で差はないとの報告があります。一方女性では息切れや起坐呼吸(呼吸困難が臥位で増強し、起坐位または半坐位で軽減すること)や肺での雑音の聴取が多いとの報告もあり、所見については明確には定まっていません。しかし身体的なフレイルは多くの報告で女性は男性よりその合併頻度は高いとされています。心不全の病態では、女性は男性とくらべ左室駆出率(LVEF、左室の収縮機能を表わす)が高く、また左室収縮筋の保たれた心不全(HFpEF)の割合は多くなります。これは女性の左心室の硬度が強く、また加齢に伴って増加することなどにより、左心室の拡張障害をきたすことが多いことがあげられています。一方男性ではLVEFの低下した心不全(HFrEF)になることが多いとされています。
心不全に対するリハビリテーションは重要で諸外国においても強く推奨されています。心臓リハビリテーションの効果は、6分間歩行テスト(6分間で歩行できる距離)や、最大酸素摂取量などの運動耐容能とQOL(生活の質)心血管疾患の発症、死亡などで表されます。HFrEFの人の心臓リハビリテーションの研究報告では最大酸素摂取量の改善は男女で有意性はありませんでした。一方全死亡は男性とくらべて女性で有意に改善したと報告されています。またQOLや予後に対する性別による有意差はなかったが6分間歩行テストでは女性は男性より有意に改善したとの報告もあります。
これらより女性心不全患者さんでは、心臓リハビリテーションによって男性と同等もしくはそれ以上の運動耐容能や予後の改善効果が得られており、心臓リハビリテーションが強く推奨されているのです。
心不全の治療薬については、多くの薬剤で女性の方が男性より薬剤の血中濃度が上昇しやすく、薬剤の至適用量や副作用の出現用量が男女で異なるとされています。HFrEFの人に使用される治療薬で、女性では男性より血圧・脈拍の低下が得られやすい薬や血管性の浮腫や咳嗽が男性の2倍以上出現しやすい薬があります。一方それらの薬では男性では高用量でないと生命予後改善効果が得られないのに対し、女性では低用量から有効性が期待できることにもなります。心不全の人の生命予後については、海外では性別による生命予後は一定した報告はありません。わが国での研究からは一般的に女性の心不全の人の生命予後は男性よりも良好と考えられています。以上心不全の特徴・病態・生命予後に関する性差について記載してきました。女性の生命予後は男性より良好です。ただしその生命予後に関して良好な効果がある心臓リハビリテーションへの参加率、継続率、医療者からの紹介率が低いことは問題です。これについては女性の好む運動手段(ダンス、ヨガなど)の提供、女性だけの運動クラスの設定、あるいは女性に対するカウンセリングなどに取り組むことが考慮されるものです。