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精神的要因を背景とする一過性血圧上昇 その予防・加療

血圧は怒りや不安などの精神的要因により大きく変動し、これらの情動の変化は一過性血圧上昇の原因になります。
正常の血圧に発作性の血圧上昇をきたす場合もありますが、高血圧に発作的な血圧上昇を合併することも多く認めます。
この発作性の血圧上昇の予防に関する研究はほぼ皆無であり、治療法に関してはほとんど触れられていません。
しかし日常的には遭遇する機会は多く、避けることができない課題です。精神的な要因が関与すると考えられる一過性の血圧上昇には偽性褐色細胞腫(頭痛、めまい、胸痛、悪心、動悸、発汗など褐色細胞腫と似た症状を呈するが、副腎には腫瘍性病変は認めない)、パニック障害、過換気などがあります。これらはいずれも頻脈や動悸などの症状が血圧上昇に伴うことが多く、それぞれの疾患の概念は異なりますが、相互に関係したりオーバーラップした病態を示すことは多いです。治療抵抗性を含む高血圧の人で、何らかの精神的要因を有する人が多いことを反映しているとも考えられます。治療に関しては確立されたものはありませんが、降圧薬(高血圧の人では)、抗うつ薬、抗不安薬、精神療法などを適宜組みあわせて治療することにより、発作的な血圧の上昇の予防、改善が期待され、半数以上の人においては有効と考えられています。パニック障害は精神的な要因が大きく関与しており、発作的には強い不安・恐怖感があり、くり返し発症することが特徴です。これに対して抗うつ薬や抗不安薬の服用が発作の予防に有効であり、発作に伴う一過性の血圧上昇の抑制も期待できます。一方、偽性褐色細胞腫は精神的背景が明らかでないことも多く、パニック障害とはことなります。血圧上昇の機序としては副腎から分泌され交感神経に作用するホルモンに対する心血管系の反応の亢進が関与しています。そのため降圧薬を服用する場合は中枢性降圧薬などが適しています。しかしストレスや精神的要因の血圧上昇に対する関与が大きい人に対しては降圧薬のみでは血圧をコントロールすることは困難であることは多く、抗うつ薬や抗不安薬の服用が発作性の血圧上昇の予防に有効との報告はあります。したがってこのような人は心療内科への併診も必要となります。過換気症候群では、呼吸回数が増加し、指の感覚の異常、めまい、動悸、頭痛などの症状が出現します。過換気により体内の血管が収縮するために血圧が上昇します。過換気には不安障害やパニック障害を伴っていることも多く、血圧の低下をむずかしくしている一因と考えられます。
過換気発作では、精神科的なアプローチをうけること(認知行動療法など)が有用と考えられますが、これが発作性(一過性)の血圧の上昇を予防するという証明はされていません。臓器障害を認めないこれらの病態における一過性の血圧の上昇は通常は降圧治療の対象とはなりません。(降圧を考慮する血圧値の基準はない)しかし30分以上の安静にもかかわらず、収縮期血圧が高血圧切迫症の基準と考えられる180mmHgを超える人の場合は、降圧薬の服用をしていただくことを考慮することとなります。しかしその場合は160/100mmHg程度への降圧を目指します。(ただちに血圧を正常化する必要はない)発作性の血圧上昇時にもちいる降圧薬は中枢性の降圧薬が有効と考えられますが、わが国では使用することは少なく、他の有効性が示されている降圧薬を服用してもらうことになります。また不安状態が強い場合は、少量の抗不安薬の服用も考慮となります。
臓器障害がなく高度な血圧の上昇をきたして救急外来を受診した人の血圧の経過に関して検討した研究はいくつかあります。それによると抗不安薬と降圧薬の服用は同等の降圧効果を示したと報告されています(複数の研究)。一方、降圧薬を服用する人と降圧薬を服用せず座位で安静にする人にふりわけて、2時間後まで血圧の経過をみた研究では、2時間後の収縮期血圧、平均血圧ともほぼ同程度の降圧を示したと報告されています。これらの結果から、一過性の血圧上昇の治療には、抗圧薬や抗不安薬の服用の効果は限定的である可能性が高く、一方で不安を取り除いて安静にして経過をみることの重要性を示していると考えられるのです。
以上、今回は精神的要因を背景とする一過性血圧の上昇、その予防、加療について説明しました。