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冠動脈疾患 睡眠呼吸障害との関係

冠動脈疾患(CAD)は高率に睡眠呼吸障害(SDB)を合併していることが知られています。たとえば睡眠時無呼吸低呼吸指数(AHI)が11以上の人では、そうでない人とくらべ冠動脈疾患の合併が1.27倍高く、またAHI≧30(重症の睡眠時無呼吸)の人では、1.68倍高かったとの報告があります。また、AHI≧30の閉塞性睡眠時無呼吸の人の致死的な心血管疾患発症は、そうでない人の2.87倍、非致死的な心血管疾患発症は3.1倍多いと報告されています。
そして急性冠症候群(ACS、以前のWebで説明)の人はSDBを合併する頻度が高いことが知られています。AH1≧10の頻度は急性心筋梗塞の人では、慢性の冠動脈疾患の人の約2倍の22%、不安定狭心症の人では約3倍の約36%であったと報告されています。これはACS発症直後の交感神経活性の亢進や心機能の低下が一過性にSDBを増悪させていると考えられています。しかしASC発症後2ヶ月経過すると平均のAHIは22から18へと改善したとの報告もあり、特に中枢性睡眠時無呼吸(CSA)の改善が有意であり、CSAはACS発症の結果として出現し、継時的に改善していく可能性が示唆されています。近年OSAと冠動脈硬化の関係性を証明する報告は多く、OSAが重症なほど冠動脈硬化の程度は強いと報告されています。たとえばAHI≧15のOSAの人では冠動脈の動脈硬化巣の容量は多いと方向されており、また硬化した冠動脈の病変や冠動脈プラークなども重症のOSAの人で多く認めます。このようにSDB・OSAでは動脈硬化が進行しやすく、SDBによって生じる低酸素やプラークの不安定化、凝固異常なども加わりACSへ進展すると考えられています。またSDBでは多血症を合併しやすく、多血症は血栓形成をおこしやすく、ACSの一因をになっている可能性があります。急性心筋梗塞後の心機能の改善はSDBを有する人では障害され、発症後の心機能の低下につながると報告されています。つまりAHIが上がるにつれて心臓の収縮機能の改善が乏しいということです。
OSAを有する人の急性心筋梗塞はOSAのない人とくらべ、その発症時間は午前0〜6時の時間帯に有意に多く、この時間帯に発症する心筋梗塞の人の91%がOSAを有しているとの報告があります。これはSDBに伴う夜間の交感神経活性の更新、血小板の凝集能の亢進などが関与して発症すると考えられています。この報告も含めOSAを有する人の急性心筋梗塞の発症時間は午前中に多いとの報告を多く認めます。ACSを含む夜間の突然死とOSAとの関連性も示唆されており、その機序はAH1より動脈血の酸素飽和度の低下との関連性が考えられています。慢性の冠動脈疾患の人でOSAを有する人が夜間睡眠中に心臓の虚血を表す心電図変化を認め、CPAPによる治療により虚血が改善することも報告されています。この場合、虚血にはOSAによる低酸素血症以外のいくつかの心筋虚血を助長する因子が報告されています。冠攣縮性狭心症の発作は夜間から早朝にかけての睡眠中(とくにレム睡眠中)に出現しやすいことは知られています。しかし冠攣縮性狭心症とSDBの関連性に関する報告は非常に少なく、したがってその発症機序に関しては不明な点が多いとされています。
SDBに対するCAPなどの治療によるCADの発症予防に関してはいくつもの報告があります。それらによると、おおむねCPAPによる治療がCAD及びそれからの心血管疾患の発症の予防に有効とする報告が多く、特に長時間(4時間以上)のCPAPの使用が心血管疾患発症を抑制できる可能性が考えられています。SDBを有するCADの人の生命予後については、心筋梗塞、脳血管障害などの心血管疾患の発症につながるとの多数の報告があります。これらの人に対して、CPAPなどの治療により、生命予後が改善したとの報告はあります。しかし多くの研究では、CPAPで治療を受けた人とCPAPによる治療を受けなかった人の生命予後(心血管疾患による死亡、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症、心不全、一過性脳虚血発作の発症などによる入院)を比較した場合、CPAPによる治療は生命予後を改善することはできていません。その原因としてCPAPによる治療をうけた人のCPAPの平均使用時間が少なかったことや、重症のOSAの人が研究から除外されていることなどが考えられています。後者の場合、倫理的な観点からCPAP治療を受けなく研究に参加していただくことはできなかったことによります。したがってこれらの点に関するさらなる研究結果が生命予後に関して待たれるところです。
以上、今回はCADとSDBの関係について概説しました。