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お知らせ
肥満に関連する健康障害(肥満症の診断には含まれない)
肥満とは脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で体格指数(BMI)≧25のことであり、肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする病態を肥満症と定義しています。肥満に起因ないしは関連する健康障害には、肥満症の診断に必要であるもの(以前のWebで説明)と、診断基準には含めないが、減量によりその予防や病態の改善が期待できることが証明されている健康障害があります。今回、その後者のほうについて説明します。
@悪性疾患:癌の死亡数は増加しており、2019年には死亡者全体の27.3%を占めるにいたっており、肥満も癌のリスク上昇の一因と考えられています。2007年、2020年に世界的展望としてだされた報告によると、肥満が大腸、食道、子宮体部、膵臓、腎臓、乳房(閉経後)の癌のリスクを増大させることは「確実」、胆のう癌については「ほぼ確実」、肝臓癌については「可能性あり」とされています。わが国では国立がん研究センターからの報告によると、乳癌(閉経後)のリスクを増加させるのは「確実」、大腸癌、肝臓癌を増加させるのは「ほぼ確実」、子宮体癌は「可能性がある」とされています。癌死亡に対する肥満のリスク増加に関しては、女性でBMI≧30の場合に「可能性あり」とされていますが、男性ではBMI<23のやせの場合に「可能性あり」とされています。これは欧米の報告、BMIが22.5〜24.9の人とくらべBMI≧25では癌死亡が増加し、BMI30.0〜34.9で1.34倍、BMI35.0〜39.9で1.47倍増加するとの報告と異なっています。肥満の合併が癌の生命予後に及ぼす影響に関しては、大腸癌、前立腺がんでは生存予後の不良に関連する、一方腎臓癌や膀胱癌では、むしろ生命予後が改善するとした研究があります。また欧米からは健康な非喫煙者での癌の死亡のリスクがもっとも低いのはBMIが18.4〜24.9の範囲と報告されており、わが国においてもおおむね同様で、BMIの推奨範囲は男性では21〜27、女性では21〜25とされています。一方肥満の改善は癌の予防につながる可能性は示されています。それには食事療法がもっとも重要とされており、適性なエネルギー量に加え栄養バランスのよい食事が推奨されています。(食塩は胃癌のリスクを増加させる。野菜・果物は複数の癌リスクを低下させるなど)また運動療法も肥満の是正には重要で、身体活動量の増加は大腸癌のリスクを抑制するのは「確実」、乳癌(閉経前)と子宮体癌については「ほぼ確実」と報告されています。その他、節酒や禁煙も重要となります。
A胆石症:肥満は胆石、とくにコレステロール胆石の危険因子となります。BMIが5上昇することに対する胆のう疾患発症の相対的なリスクは1.63倍とする報告があります。一方で比較的急速な減量は、胆石の生成を促進することは知られています。肥満の外科手術も最近では多くおこなわれるようになっていますが、手術後に胆石の発症が増える可能性があり、予防的に胆のう摘出が同時におこなわれることがあります。胆石生成に対する予防としては、コレステロール合成を減少させるスタチン(高脂血症治療薬)の服用が有効などの報告があります。
B静脈血栓症・肺塞栓症:肥満は静脈血栓症(VTE)の危険因子の1つと考えられています。それは初回発症・再発においても同様なリスクとなっていますが、再発の場合、肥満との関係は男性とくらべて女性においてより強いとされています。たとえば産婦人科領域の手術ではBMI>27の肥満は周術期の肺塞栓のリスクを3.5倍近くまで上昇させます。VTEが発症した場合、その院内での死亡率は14%、また死亡した人の26%以上が発症から1時間以内の突然死であることから、発症予防に対する肥満の是正は重要です。
C気管支喘息:肥満は喘息の発症および発症後増悪する危険因子であり、BMIが高いほど喘息発症のリスクは高くなります。肥満と関連する喘息は高齢での発症、非アレルギー性、女性に多いなどの特徴があります。肥満のある喘息の人では減量は喘息のコントロールと生活の質を改善します。ただし、減量による喘息の改善効果を得るためには、10%以上の減量が必要との報告があります。
D皮膚疾患:肥満の人では、発症率の高くなる皮膚疾患(偽性黒色表皮腫、汗疹、乾癬など)があり、また皮フへの細菌や真菌の感染のリスクが高くなります。これらの肥満関連皮フ疾患に対する最優先の予防策は減量です。発症後は患部の清潔の保持や保湿クリームなどを用いたスキンケアに加え、個々の患者に対する治療をおこなうことです。
E男性不妊:肥満は男性不妊の危険因子のひとつです。肥満では体内のホルモンや代謝の変化により精子機能に悪影響が生じるとされています。したがって肥満を伴う男性不妊の人には減量が勧められます。
F胃食道逆流症:肥満は胃食道逆流症(GERD)の危険因子のひとつになります。肥満度とGERDの症状(胸やけ、心窩部痛など)には正の相関があるとの報告はあります。治療としては就寝時の頭部挙上や腹式呼吸などの一般療法に加えて、脂質を少なくするなどの食事の管理や減量により自覚症状を改善させることが可能です。
G精神疾患:肥満症ではさまざまな精神疾患の合併率は高くなり、特に肥満症の人ではうつ病の有病率が高いことが知られています。肥満とうつ病もたがいに発病を促進し、症状を悪化させるという悪循環を引き起こします。その他の発症に強い関連がある精神疾患としては過食性障害、抑うつ障害、双極性障害などがあり、さらに精神疾患の治療に用いる薬のなかには肥満の発症に寄与する副作用をもつものもあります。肥満症と精神疾患には密接な関連が指摘されているのです。これらの人に対する治療においては、その人の心理社会的な状況の理解とそのうえでの支持的な対応や環境調整などを含む対応が必要かつ求められます。我々医療者もその人達に対する配慮は必要かつ重要です。
以上今回は肥満の診断には含まれないが、肥満に関する健康障害に関して概説しました。
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