お知らせ

心不全と併存症

心不全にはいろいろ併存する病能があります。たとえば高血圧症、慢性腎臓病、貧血(以前のWebで記載)今回それ以外のあまりとりあげられていない併存症について説明します。
@高尿酸血症:高尿酸血症は心不全の人にしばしば認められる併存症です。高尿酸血症は血漿尿酸値が7.0mg/dlを超えるものと定義されています。心不全の人の血漿尿酸値は健常な人と比較して高いです。その機序は尿酸の産生過剰と排泄の低下の両面が考えられます。心不全や心筋の虚血ではキサンチンオキシダーゼ(XO)の活性が亢進し、尿酸の生産が過剰となります。XOとは尿酸の産生過程の最終段階に関与する酵素で、心筋細胞にも少量ですが存在するものです。 一方心不全では腎臓の血流量や糸球体濾過量の減少により尿酸の排泄が低下します。さらに心不全の治療に広く用いられる利尿薬が尿酸の排泄を障害し、血清尿酸値の上昇を悪化させるのです。心不全の人においては血清尿酸値と生命予後との関連が示唆されていますが、その病体生理学的な意義の詳細は不明です。心不全の人の多くは高血圧症、糖尿病、慢性腎臓病や虚血性心疾患などの合併症を有しています。わが国では血清尿酸値が7.0mg/dlを超える痛風関節炎・痛風結石の人や血清尿酸値が8.0mg/dlを超える高血圧、糖尿病、慢性腎臓病、虚血性心疾患などを合併する人では生活指導および薬物療法の考慮が推奨されています。心不全の人では血清尿酸値のコントロール基準を明確に示した研究はありませんが、上記などを考慮すると血清尿酸値7.0mg/dl以下が妥当とされています。 ACOPD・喘息:気管支喘息は、心不全の急性増悪時には鑑別が必要な疾患です。気管支喘息は非発作時には胸部X線で異常な所見を認めることは少ないですが、気道壁の肥厚と過膨張は認められ、喘息発作時には顕著となります。CDPDは左心不全の人の約20〜30%に併存します。またCOPDは左心不全の発症や心不全に伴う心血管死の独立した危険因でもあります。
COPDの併存は心不全の安定期にスパイロメトリー(肺機能検査)をおこない、その1秒率の低下で判断できます。
心不全により肺のうっ血がある場合は、1秒率は過少評価される危険性があります。(肺うっ血時には1秒率が約10〜20%低下する)そのため、肺うっ血の治療による改善後6〜8週後頃に1秒率による評価が望ましいとされています。
心不全とCOPDの増悪による呼吸不全の鑑別は困難となることがありますが、その場合血液検査上のBNPあるいはNT-proBNPの値が診断の助けとなります。(BNP、NT-proBNPは心不全では上昇するがCOPDの増悪では右心不全を伴わないと上昇は強くは認めない)COPDを合併した人の心不全の治療は通常の心不全時におこなわれる治療薬が推奨されます。気管支喘息と心不全を合併した人の治療では、通常の心不全治療薬が用いられます。ただしその中でβ遮断薬は気管支収縮作用を認めるものがあります。しかし心不全の治療でβ遮断薬の有用性が高いと判断された場合、気管支ではなく心臓にほぼ選択的に作用するβ1遮断薬をこれらの人に使用することはあります。(また、β1遮断薬は気管支喘息の人に完全に安全ではないので、使用する場合のリスクを考慮したうえで最小用量から慎重に使用することになります。)一方COPDに心不全を合併した場合や気管支喘息に心不全を合併した場合は、COPDの治療、気管支喘息の治療をおこない、並行して心不全の治療を継続することでおおむね各々の病態の改善に有効とされています。
B心臓弁膜症:心臓弁膜症を合併する心不全の人は生命予後に対するリスクが高く、治療方針の決定には多面的な検討が必要です。心不全の主たる原因となる基礎疾患が心臓弁膜症である場合は、弁膜症に対する治療にそった治療がおこなわれます。多くの場合原因となる心臓の弁膜の外科的な治療である弁置換術(機械弁やぶたなどの生体弁に置きかえる)/形成術や最近ではカテーテルを用いた弁の留置術やカテーテル的にクリップを用いて弁を把持・固定することで弁膜の異常から生じる血流の異常を制御する治療法がおこなわれます。ここで留意されないといけないことはこれらの治療をおこなった後は適切な心不全薬による治療を継続していただく必要があるということです。たとえば術後も左室の収縮能の低下している人では、収縮能の低下した心不全の治療方針に沿った薬物療法を継続していただくことです。
一方拡張型心筋症などの基礎心疾患があり、その進行による心不全で二次的に弁膜症が発症した場合は治療方針は異なります。この場合、基礎心疾患に対する基本的な治療をしていただくことが第一であり、これに加えて弁膜症に対する治療を考えることになります。わが国では心不全に併存する合併症は、僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症や三尖弁閉鎖不全症の頻度が高いとされています。心不全とこれらの弁膜症が併存した場合は、上記に記した個々の治療の適応を評価し施行していくことになります。
以上今回は心不全と併存症について概説しました。