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認知症 高血圧との関係
高血圧と認知機能、認知症との関係は、年齢、高血圧の罹患期間、降圧薬などのさまざまな要因が関係しており複雑です。修正可能な要因の認知症への影響をみた研究では、高血圧の認知症への人口寄与危険度は2%あるいは8%との報告があります。一般に若年期の高血圧は中年期の認知機能低下危険因子となり、中年期の高血圧は高齢期の認知機能低下の危険因子となり、特に血管性認知症の強い危険因子であり、したがって中年期の高血圧は積極的に治療すべきとされています。
一方高齢期における認知症と血圧との関係は一定せず、高血圧のみならず、低血圧も認知症と関連すると報告されています。この関係が一定しない原因として、中年期の血圧と高齢期の血圧の交互作用の影響、つまり中年期に高血圧が存在した場合は、高齢期には血圧低値が認知機能低下や脳萎縮と関連する。さらに血圧変動の異常、たとえば起立性低血圧や血圧の日差変動の増加が認知機能低下や認知症発症と関連するなどが考えられます。次に降圧薬による治療の認知機能への影響をみてみると、脳血管障害の既往のない高血圧の人では、降圧薬の種類にかかわらず全般的な認知機能を有意に改善したと報告されています。しかし脳血管障害既往のある人では認知機能に対する有意な改善効果は認められていません。ただし、降圧薬により厳格に降圧をおこなった人と通常に降圧をおこなった人では認知機能に関して有意な差はなかったとされています。では、降圧薬の治療による認知症発症に対する効果はどうでしょうか。
脳血管障害の既往のない高血圧の人では、降圧薬による治療で、すべての認知症発症に対してその有意な抑制効果は認められていません。脳血管障害既往のある人では、認知症病型別でみると降圧薬による治療が血管性認知症の発症を抑制(脳卒中再発による認知症の発症抑制)しました。一方アルツハイマー病の発症には抑制効果は認められていません。ただし認知症発症に対しても降圧薬による厳格な降圧は通常の降圧に比較して悪影響は認めていません。以上からすると高齢の高血圧の人に対する降圧薬による治療が認知機能保持効果を有することを示した確固とした証明はされていません。しかし降圧薬による治療が高齢の高血圧の人の認知症発症や認知機能に悪影響を示した報告はなく、したがって脳心血管疾患などの合併症予防のためにも、これらの人に対する降圧薬による治療はおこなうべきです。
次に認知症を合併した高齢の高血圧の人に対する降圧薬による治療について考察します。一般に高齢の人では脳血流の自動調節の障害により、血圧の低下が容易に脳血流を低下させ、認知症の人の認知機能をさらに悪化させることがけねんされます。このことに関しては認知症もしくは軽度認知機能障害(MCI)を有する高齢な人に対する血圧と認知機能の変化を評価した研究があります。それによると昼間の血圧を自由行動下血圧測定(ABPM)で3群に分類し、認知機能を評価すると、血圧の一番低値な人の群で、他の血圧の高値の2群の人とくらべ、認知機能の低下が有意に促進されていました。つまり過剰な降圧に伴う脳血流の低下が、認知機能の低下をきたす可能性が示されているのです。しかしMCIの人に対して降圧薬による治療をおこなった別の研究では、降圧薬の中止により、血圧のやや上昇はえられるものの認知機能の改善は認められていません。一方この研究では降圧薬の中止により、起立性低血圧は約60%の人で改善しています。以上より降圧による治療で、低下しすぎた血圧が認知機能に悪影響を与える可能性は否定できません。したがって認知症を合併した高血圧の人においても降圧薬は、一般の高齢の高血圧の人の降圧目標値を大きく下回らないように、またABPMや家庭血圧を参考にして降圧薬による治療の調整が重要と考えられます。
以上今回は高血圧と認知症に関して概説しました。