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家族性高コレステロール血症

家族性高コレステロール血症(FH)は高LDLコレステロール(LDL-C)血症、腱・皮フ黄色腫を主徴とする常染色体遺伝性疾患です。きわめてまれに常染色体潜性(劣性)形式をとりますが、ほぼ顕性遺伝(優性遺伝)形式をとります。FHの人の全身動脈硬化症の中で、主たる合併症かつ最も重要な合併症は冠動脈疾患です。冠動脈疾患の発症は、FHでない人と比較すると10〜20倍と考えられており、無治療のFHヘテロ接合体の人では心臓死が60%前後ときわめて多く発症します。男性では30〜50歳、女性では50〜70歳の間に心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の発症を多く認めます。わが国におけるFHの有病率は一般人口の300人に1人程度、冠動脈疾患の30人に1人程度、早発性冠動脈疾患や重度高LDL-C血症の15人に1人程度と考えられており、頻度が高い心血管疾患のリスクの高い遺伝性疾患です。FHは早期診断および適切な治療治療開始が重要です。それは早期診断によりスタチンなどを用いた積極的なLDL-C低下療法をFHの人が受けることで、FHヘテロ接合体の人の冠動脈疾患発症の遅延や生命予後の改善が可能であるからです。そのためFHの人で冠動脈疾患を疑う症状のある場合や頸動脈エコーで動脈硬化が認められる場合は、心電図、運動負荷心電図、心エコー、心筋シンチ、冠動脈CTで冠動脈の動脈硬化の評価をこおなわれることが推奨されています。次に成人FHの診断基準(15歳以上)を示します。
1.高LDL-C血症(未治療時のLDL-C値180mg/dL以上)
2.腱黄色腫(手背、肘、膝などまたはアキレス腱肥厚)あるいは皮フ結節性黄色腫。
3.FHあるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(第一度近親者)です。アキレス腱肥厚はX線撮影により男性8.0mm以上、女性7.5mm以上あるいは超音波法で男性6.0mm以上、女性5mm以上で診断します。
皮フ結節性黄色腫には眼瞼黄色腫は含みません。早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満で発症した冠動脈疾患です。上記1.2.3.の2項目以上を満たす場合はFHと診断します。2項目以上を満たさない場合でもLDL-Cが250mg/dL以上の場合、あるいは2または3を満たしLDL-Cが160mg/dL以上の場合はFHが強く疑われます。遺伝学的な検査は診断には必須ではありませんが、FHのホモ接合体が疑われる場合はそれによる診断が望ましいとされています。FHの治療は成人FHヘテロ接合体の人ではLDL-C管理目標値は第一次予防では100mg/dL未満、二次予防では70mg/dL未満となります。FHの治療においても生活習慣の修正は重要ですが、運動療法を始める場合、FHは動脈硬化性疾患のリスクが高いため、開始前に動脈硬化性疾患の有無に対するスクリーニングは必要となります。禁煙、肥満対策も重要です。しかしFHの治療では生活習慣の修正だけでは十分な脂質の管理が得られない場合が多く、スタチンを第一選択とした薬物療法の併用が推奨されます。スタチンの通常の用量で十分な効果が得られない場合、スタチンの最大の用量までの増量およびエゼチミブの併用をおこないます。それでも効果が不充分な場合にはPCSK9阻害薬、レジン、プロブコールなどの併用もおこなっていただきます。スタチン不耐(スタチンの服用に伴って見られる有害事象により、服用する人の日常生活に許容困難な障害が重じ、その結果服薬中断や減量に至るもの)を除く、FHヘテロ接合体の人で、これらの治療を併用実施してもLDL-Cの低下が得られてない場合は、FHホモ接合体の可能性が高いため、遺伝学的検査が推奨されます。またFHヘテロ接合体の人で冠動脈疾患の診断が確定しており、生活習慣の修正、厳格な薬物療法を施行されてもLDL-C値が170mg/dL以下に低下しない場合はLDLアフェレシス治療(血液を体内から体外へ出し、血球成分と血漿成分に分離したのち血漿成分に含まれるLDL-Cを取り除いた後、再び体内に血液を戻す治療法)が行われることがあります。成人FHホモ接合体の人の治療は、可及的速やかにLDL-Cを低下させることが肝要で、積極的な治療が必要です。LDL-Cの管理目標値はヘテロ接合体の人同様に一次予防の人で100mg/dL未満、二次予防の人で70mg/dL未満ですが、到達困難なことは多いです。治療の基本は生活習慣の修正ですが、FHホモ接合体の人の動脈硬化進展は著しく早いため、運動療法の実施前には冠動脈疾患、弁膜症(特に大動脈弁狭窄症)、大動脈瘤などの評価をおこない、慎重に判断する必要があります。しかし生活習慣の修正のみでは、LDLコントロール不可能です。そのため若年期から強力なLDL-C低下療法が必要です。FHホモ接合の人は、LDL受容体(LDLを細胞内に取り込むタンパク質)活性がわずかに残っている人やLDL受容体活性が完全に欠損している人があります。完全欠損の人ではLDL受容体の活性増強が主な作用であるスタチンやPCSK9阻害薬はLDL-C低下の効果は認めません。よってFHホモ接合の人を対象に開発されたMTP阻害薬を肝臓への脂肪蓄積、下痢などの副作用に注意しながらの使用などがおこなわれます。しかしそれらの治療をおこなっても、LDL-Cのコントロールには1〜2週間に1回のLDLアフェレシス治療が必要な場合が多いです。最後にFHの人の妊娠・出産に関して記述します。
妊娠を希望するFHの人は、安全な妊娠の継続・出産に備えて、あらかじめ前述の動脈硬化検査による動脈硬化の状態を確認し、妊娠前のカウンセリングを十分におこなわれる必要があります。薬物療法に関しては、脂質低下薬を服用中に妊娠が判明した場合は、ただちに服薬を中止すべきで、服薬中に挙児希望のある人では、服薬を3ヶ月中止してから妊娠を試みるべきとされています。また妊娠中、出産後の授乳期はレジン以外の脂質低下薬の服用は胎児奇形などの発症リスクが懸念されるため、服薬の中止が奨励されます。
妊娠中、妊娠後(特に出産時)にはLDLアフェレシスの施行が望ましいとされています。
以上、今回は家族性高コレステロール血症について概説しました。