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糖尿病と心不全

糖尿病は心不全発症の独立した危険因子であり、心不全は糖尿病の人の生命予後を規定する重要な因子となります。糖尿病を合併する割合は心不全の人で約36%あるいは23%と報告されています。
また糖尿病の心不全を発症するリスクは糖尿病でない人とくらべて男性で約2倍、女性でも約5倍あり、糖尿病の前段階(耐糖能異常)から心不全の発症リスクは1.2〜1.7倍に増加するとの報告もあります。
さらに糖尿病の人の初回の入院は心不全によるものが最多であり、また初回発症した心血管腎疾患の調査では慢性腎臓病の約40%についで心不全が約30%の高頻度であったと報告されています。したがって糖尿病は心不全の新規の発症そして再発の有意な危険因子となります。特に60歳未満の人における新規の発症リスク、女性や左心室の駆出率が保たれた心不全(HFpEF)の人における再発リスクなどへの影響が大きいことも示されています。糖尿病の心不全発症の機序をみると、左心室の駆出率が低下した心不全(HFrEF)では高血圧や糖尿病などによる動脈硬化を基盤とした冠動脈疾患に由来することが多くなります。一方HFpEFの発症には、代謝の異常の関連が指摘され、それによる微少血管の内皮細胞障害を起点として心筋細胞の肥大や心筋の伸展性の低下が惹起され、左室の拡張機能が低下するとの説があります。心不全の診断歴のない2型糖尿病の人を調査すると25%の頻度で新たに心不全が診断され、その大部分がHFpEFであったという研究報告があります。
以上より糖尿病における心不全発症リスク、特に潜在的な左室拡張障害のリスクが高いことは知っていおく必要があります。糖尿病に合併した心不全の診断では、自覚症状の把握が重要です。つまり労作時息切れ、動悸、倦怠感、下肢浮腫、夜間頻尿、夜間の発作性呼吸困難、起坐呼吸などです。これらの症状が出現して我々循環器医を受診された場合、我々は聴打診などの他覚的所見や胸部X線や心電図検査をおこない、心不全を疑わせる所見が強い場合、心エコー検査や血液検査そして必要ならさらなる精密検査をおこない、心不全の病態や基礎疾患に対する治療をおこなうこととなります。糖尿病を合併した心不全の人の薬物治療は、糖尿病でない人にもおこなう標準的な心不全の薬物治療をおこないます。一方、心不全を合併した人の糖尿病の薬物療法では、投与をしてはいけない糖尿病薬があり、それらを除いた糖尿病薬の使用、最近ではSGLT2阻害薬の使用が心不全の発症・軽快などに良好に作用するためその使用が推奨されています。糖尿病の人の心不全発症予防の観点では、低血糖の発生は交感神経を介した心血管への悪影響が想定されるため、その発生をさけることが大事です。一方、血糖のHbA1c(1〜2ヶ月の血糖のコントロール状況を表わす)を指標とした明確な管理目標値は確率していません。(米国では心不全を合併(予防ではなく)した心不全の人におけるHbA1cの管理目標値は7%と設定している)したがって糖尿病の病態に応じた個別の管理目標が妥当とされています。もちろん薬物以外に生活習慣の修正をおこなうことも必要です。以上、今回は糖尿病及び心不全との関連について説明しました。