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急性下肢動脈閉塞
急性下肢動脈閉塞による急性下肢虚血(ALI)は聞きなれない疾患です。重篤な状態におちいる可能性のある病態で、今回はこれについて説明します。ALIはその原因に関わらず肢切断に至る急激な肢の虚血を呈する病態と定義されており、迅速な診断と適切な治療が行われなければ、肢のみならず生命予後も不良となる疾患です。ALIは通常、急性発症から進行性に増悪する2週間以内の虚血肢ですが、いまだ15〜20%という高い死亡率が報告されています。人口1万人あたりのALIの発症率は、1年間で1〜23人と欧米から報告されています。病因は外傷性、医原性を除くと塞栓症と血栓症に分類されます。日本血管外科学会の調査(2014年)では塞栓症が45%、血栓症が35%と報告されています。
塞栓症は塞栓子が末梢動脈を突然閉塞し、組織の虚血に陥る病態です。塞栓源により心原性塞栓症(心臓が原因となる塞栓により生じるもの)と非心原性塞栓症に分類されます。塞栓閉塞は末梢の血管の分岐部におこりやすく、どの末梢動脈でも起こりうります。(たとえば大動脈、腸骨動脈(下肢を還流する動脈)が約15%に生じるなど)特に大きな塞栓子は腹部大動脈の分岐部で閉塞をおこし、両下肢の急性動脈の閉塞の原因となります。心原性塞栓症を生じる原因疾患としては、心房細動、弁膜症、左心室血栓、奇異性塞栓(聞きなれない病態です。質問されたらお答えします)などがあります。非心原性塞栓は不整なアテローム性動脈硬化病変など、強い動脈硬化病変を原因疾患とするものが多く、また膝窩動脈瘤も原因となります。
血栓症は閉塞性動脈硬化症などの慢性閉塞病変が脱水、心拍出量低下あるいはプラークの破錠によって急性閉塞に陥るもの(Acute on chronic arteriel thrombosという)、膝窩動脈瘤、血管炎などがあります。ALIの臨床症状は急性に発症し進行する患肢の疼痛(pain)、知覚鈍麻(paresthesia)、蒼白(pallor)、脈拍消失(pulselessness)、運動麻痺(paralysis)の5Pが特徴ですが、虚脱(prostration)を加えて6Pとする場合もあります。一般に発症から4〜6時間で神経→筋→皮膚の順に不可逆的な変化に陥ります。知覚神経障害や腓骨神経マヒに起因するdrop footを認める場合は加療の緊急性は高くなります。
ALIが疑われる人では血液検査、尿検査や血管エコー、心エコー図検査もおこないますが、造影CTによる全身の動脈検索が重要となります。ALIは急性の高い疾患であり、その臨床分類を筒状に記します。T:救視可能、U(危機的):Ua(境界型)ただちに治療するれば救肢可能、Ub(即時型)即時の血行再建により救視可能、V:不可逆性広範囲な組織欠損または恒々的な神経障害が不可避。
ALIの治療は診断が確定し、禁忌でないかぎり速やかにヘパリン(抗凝固薬)を投与します。
そしてカテゴリーUa、Ubの人では6時間以内、カテゴリーTの人でも24時間以内の血行再建が必要です。
血行再建の方法としては、わが国では手術が第一選択となっていますが、動脈硬化性疾患の合併により手術が困難な人、手術による血栓除去が困難な人、全身状態、時間的制約などで手術による血栓除去が困難なひとでは代替療法としてEVT(血管内治療)が選択されます。また外科的な血栓除去後に血栓や狭窄性病変が残存する場合には、引き続きEVTを施行することで肢の予後が改善する可能性があり、これをハイブリッド治療といいます。
急性下肢動脈閉塞の治療後には、再発を防ぐために原因検索が必要です。最も一般的なのは、前記したように心房細動や心筋梗塞を背景とした心原性塞栓、そして大動脈の壁在血栓による塞栓であるアテローム塞栓症であり、その検索のために24時間心電図、心エコー図検査、胸部部の造影CT検査を行うことが推奨されています。また、下肢動脈閉塞後の後療法では、心原性塞栓によるものでは、直接経口抗凝固薬、動脈硬化が原因とされる動脈閉塞のものでは抗血小板薬やスタチン(脂質低下薬)の服用が推奨されます。
以上、今回は心房細動や強い動脈硬化を指摘された人には知られておく必要のある急性下肢動脈閉塞について説明しました。