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心房細動と高血圧

心房細動と高血圧は併存することが多く、両者ともその頻度は年齢とともに増加します。心房細動は全身の血栓塞栓症、とくに心原性脳塞症のリスクを増加させます。また心房細動は心臓の機能の低下を惹起し、心不全への進展や心血管疾患そして死亡の増加に関与します。高血圧は心房細動発症の主要なリスクであり、交感神経の活性化、レニンアンジオテンシン系の賦活化、心房の拡大、心房の線維化、そして左心室の肥大や拡張の障害など左心室の異常を引き起こし、それらが心房細動の発症に関与するメカニズムとして考えられています。
正常高値(120〜129/<80mmHg)そして高値(130〜139かつ/または80〜89mmHg)の血圧でも心房細動の発症リスクは増加します。したがって収縮期血圧を130mmHg未満の厳格な降圧が心房細動の新規発症の抑制に有効と考えられます。一方、生活習慣に関する日本の研究では、年齢や血圧以外に肥満、喫煙、(過度の)飲酒も心房細動発症のリスクとされており、これらの生活習慣の修正も心房細動の新規発症の抑制につながる可能性はあります。心房細動の合併は脳血管疾患発症の強いリスクとなり、そして心房細動の人における脳卒中、動脈塞栓症や全死亡のリスクは血圧依存性に増強します。したがって、慢性心房細動の人を対象にした研究から、脳卒中などの発症抑制には130mmHg未満を目指した血圧のコントロールが望ましいと考えられます。また、心房細動の人では心原性脳塞栓などの動脈塞栓症の予防のために適切な抗凝固療法が必要となりますが、抗凝固薬の服用に伴う出血性合併症を抑制する意味でも厳格な血圧の管理は不可欠です。心房細動の発症予防に関しては、服用する降圧薬の有効性を考える場合、一次予防(新規発症の予防)と二次予防(心房細動の発作頻度の低減や再発あるいは慢性化の防止)を区別して考える必要があります。一次予防に関しては高血圧の人におけるレニンアンジオテンシン系阻害薬の服用は、心房細動の発症抑制効果が国内外の研究で示されており、左心室の肥大や心不全を合併した人では特に有用性は高いと考えられます。左室の収縮能の低下した心不全の人ではβ遮断薬も心房細動の新規発症抑制に有効です。二次予防に関しては、レニンアンジオテンシン系阻害薬の有効性は否定されています。つまり発作性の心房細動の人の発作頻度の抑制や心房細動の慢性化の防止、除細動後の再発の防止といった二次予防に対するレニンアンジオテンシン系阻害薬の効果は明確ではありません。
慢性の心房細動の人では適切な血圧の管理とともに心拍数のコントロールも心不全発症の予防のために重要となります。とくに頻脈性の心房細動の人では心拍数のコントロール目的でβ遮断薬の服用は考慮されます。以上今回は高血圧と心房細動の関係について概説しました。