お知らせ
リードレスペースメーカ
ペースメーカは、心臓の拍動が遅く(徐脈)ペースメーカの助けがないと生活が困難(心不全、失神などをおこす)になる人などの治療に使用されます。従来のペースメーカ(経静脈ペースメーカ)は本体(電池と電気回路を組み合わせた発振器)を鎖骨の下の皮下に収納し、鎖骨下静脈より、心臓内に挿入し固定したリードと接続します。そして本体からの電気刺激を心臓に与えることにより心臓を拍動させるものが主体でした。リードレスペースメーカは本体とリードが一体化したカプセル状の装置です。それを心臓内に留置(植込みを行なわない)、それによる刺激により心臓を拍動させるものです。したがって
従来のペースメーカ(経静脈ペースメーカ)とくらべ皮下に本体を収納するスペースや鎖骨下静脈から心臓に至るリードが不要となります。リードレスペースメーカは従来、徐脈性心房細動や高齢な人に対して用いられる傾向がありました。
しかし若年な人における従来のペースメーカ(経静脈ペースメーカ)の植込みでは、植込み後長期化することによる感染のリスクが高くなることや、活動性の高い人ではリードの損傷のリスクが増大することがけ念されます。そのため若年の人におけるリードレスペースメーカの有用性が再考されています。現在リードレスペースメーカの植込みが推奨される人は、感染リスクが高い、末期の腎不全、従来のペースメーカによる感染の既往、経静脈リードが植込みにくい静脈の解剖学的制約、ステロイドや免疫抑制薬などの薬物療法中(感染リスクが高くなる)、放射線治療中、先天性の心疾患、40歳以下、血管内のカテーテル留置中、またはその必要性が高い場合などがあげられています。このようなことより今後は若年な人に対するリードレスペースメーカの植込みの拡大が予想されますが、本体の電池消耗時(抜去するか心臓内に留置したままにするかの選択)の判断や複数のリードレスペースメーカの植込みの可能性の検討が必要となるため、20年を超える余命が予想される人に対しては慎重な判断が必要とされます。リードレスペースメーカは上記の如く、経静脈ペースメーカに対する利点はありますが、心臓内への植込みに際して、心筋の穿孔、心のう液貯留という合併症が、約1〜2%に認められます。心筋の穿孔が生じた場合は開胸による手術を要することもあるため、ペースメーカ植込みに際しては、そのリスクの評価が重要となります。
心筋の穿孔、心のう液貯留のリスクとしては、85歳以上、BMI(肥満度)<20kg/u、女性、心不全、陳旧性心筋梗塞、肺高血圧、慢性閉塞性肺疾患、透析がリスクの増強な因子となり、85歳未満、心房細動、心臓手術後、冠動脈疾患がリスクの低減因子とした報告があります。これを日本人にあてはめてみると、高齢、BMI低値、女性が多いなどががあり、心のう液貯留のリスクの増強因子をより多く有していることになります。
次に感染をおこしたため経静脈ペースメーカを抜去した後に、その人に対してリードレスペースメーカの植込みをした場合の帰結を考察してみると複数の報告がありますが、多くの報告では再度の感染は認めていません。また抜去後のリードレスペースメーカの植込みと初回のリードレスペースメーカ植込みを比較した研究では植込みに関連する合併症や全死亡などのいずも有意な差は認めていません。しかしリードレスペースメーカの植込みは最近おこなわれるようになったため長期的な研究結果はでていなく時間経過と伴にさらなる研究は必要です。
リードレスペースメーカは心室に植込むため、心房に対する刺激はできません。したがって心房刺激や心房・心室の同期が必須である人には、リードレスペースメーカではなく、経静脈ペースメーカが推奨されます。
また活動性が高く、心拍数115拍/分を運動時などに超える人では、リードレスペースメーカの現在の機能では対応できないため、この場合も経静脈ペースメーカが推奨されます。海外では成長期にある小児に対して、将来の経静脈ペースメーカ植込みまでの間のブリッジとして、静脈の閉塞などのリスクのないリードレスペースメーカの植込みを行っているとの報告もあり、電池寿命の延長(現在では12年程度)の期待と伴に今後の適応の変化が予想されます。以上今回はリードレスペースメーカの概説をしました。
ペースメーカによる治療はリードレスペースメーカ以外でも徐々に進歩しています。頭の隅にいれておいていただければと思います。