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冠動脈プラークその増大・退縮 冠動脈疾患との関係
冠動脈プラーク(芯に脂質や壊死性のものを含む)は冠動脈内腔の物理的狭窄をきたすだけでなく、さまざまな炎症が関与してその被膜が薄くなると、プラークが破綻し、冠動脈の血栓による閉塞を起こしうります。したがって冠動脈疾患の予防のためには冠動脈プラークの増大抑制、退縮が重要なポイントになります。この冠動脈プラークは以前より退縮することが報告されています。今回はこのことについて概説します。
冠動脈ではその内腔のプラーク量が多いほど心血管疾患の発生率が高率であることが報告されています。
そしてそれによる冠動脈の狭窄が有意でない部位のプラークの中にも将来的に問題を起こしうるプラークが存在する可能性はあります。実際、急性冠症候群(ACS)を起こし、その経過の追跡期間中に冠動脈疾患を併発した冠動脈病変を調べてみると、ACS初発時の冠動脈の狭窄部位(責任病変という)と同部位で起こった病変と、ACS初発時の責任病変以外の狭窄に起因する(非責任病変という)冠動脈疾患がほぼ同数認められています。この場合非責任病変からの併発にはプラークの容積が最も関与し、その次にプラークをおおう線維性被膜の薄さが関与していました。日本からの報告ではACSを起こした人の非責任病変のプラークの退縮がみられた人では、そうでない人とくらべ心血管疾患の発症が有意に抑制されていました。したがってこれらの報告より冠動脈疾患の再発抑制には冠動脈の責任病変以外の部位のプラークへの注意を払うことが重要であることが示されています。プラークの増大には酸化ストレスなどのさまざまな炎症がかかわっていると考えられており、その退縮にもさまざまなメカニズムが関与しています。
脂質低下薬(スタチン)は退縮に関与する大きな因子のひとつです。実際以前より、スタチンの内服によるLDLコレステロールの60〜70mg/dlまでの低下により、冠動脈のプラークは退縮しています。さらにプラークの退縮がACSを起こした人の心血管疾患の良好な予後に関与することが示されています。日本人の研究においても、これらの積極的な脂質の低下療法が、冠動脈のプラークの退縮と、心血管疾患の発症抑制につながることが示されています。では脂質低下薬でスタチン以外の薬の使用で冠動脈のプラークの退縮はどうなるでしょうか。エゼチミブ、PCSK9阻害薬の脂質低下薬が、スタチンと併用して使用されることが多いです。結果はエゼチミブやPCSK9阻害薬の併用はスタチン単独の使用とくらべ、冠動脈のプラークをより退縮することが種々の研究で証明されています。
つまり、スタチン単独でも、スタチンにそれ以外の脂質低下薬を併用した場合でも、その使用によるLDL-コレステロール達成値とプラークの容積の退縮の変化率は相関を示しており、結果として、スタチンだけでなく、エゼチミブやPCSK9阻害薬を用いてLDL-コレステロールを強力に低下させることが、冠動脈のプラーク退縮に有効であることが示されているのです。これまで記載してきたようにLDL-コレステロールを厳格に低下させることが冠動脈プラークの退縮に関連します。しかしそれでもなお冠動脈疾患が発生したり、冠動脈のプラークの退縮が得られない人達がいることも知られており、これらの現象を冠動脈疾患の残余リスクといいます。残余リスクの検討では、プラークが退縮するとされているLDL-コレステロールが70mg/dl未満を達成した人の研究で、プラークの増大した人は退縮した人と比較して、糖尿病であること、収縮期血圧が上昇している、HDL-コレステロールの上昇率が低い、ApoB(脂質をとり囲む蛋白質で動脈硬化発症と強く関連している)の低下率が低いことがプラークの増大に関連しており、さらにnon-HDL-コレステロール(総コレステロールからHDL-コレステロールを差しひいたもの)と中性脂肪の高いことも関連していました。
またレムナントコレステロール(中性脂肪やコレステロールが蛋白質と結びついた複合体が分解されて生じる中間代謝物で動脈硬化の危険因子とされている)の増加とプラークの容積の増大にも有意な相関があることも示されています。しかしnon-HDL-コレステロール、ApoB、レムナントコレステロール、トリグリセライドなどの脂質は冠動脈疾患の残余リスクと示されていますが、これらに対する治療は十分には確立されていなく、今後の研究によるところが大きいのです。
以上、今回は冠動脈プラークと冠動脈疾患の関係に関して概説しました。