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右心不全

心不全とはなんらかの心臓機能障害が生じて心臓のポンプ機能が低下することにより、心臓のうっ血と心拍出量の低下をきたした病態です。左心室と右心室のどちらに異常があるかによってどの臓器に主たる障害が出現するかが決まります。右心不全とは右室の機能の低下を特徴とする臨床症候群であり、これは右室からの不充分な血流の拍出およびまたは右室の充満圧の上昇につながります。右心不全をひき起こす疾患で、その死因として右心不全が最も多いとされているものに肺高血圧症があります。この臨床像としても、右室の充満圧の上昇と心拍出量の低下をきたした状態として認識されています。
右心不全の主な症状には、呼吸困難や倦怠感、うっ血があります。理学的な所見では静脈系のうっ血による所見が主体となります。すなわち頸静脈の怒張、浮腫(特に下腿浮腫)、肝腫大、腎臓のうっ血、さらに腹水などがみられます。そして臨床的に大切なのは右室・左室のどちらの心不全でも進行すると両心不全状態となり、それによる臓器障害が著明に助長されることです。たとえば腎臓では静脈圧の上昇による腎臓のうっ血と心拍出量の低下による平均血圧の低下により著明な尿量の減少を招きます。肝臓では肝臓のうっ血による胆道系の酵素の上昇、そして心拍出量低下による虚血性肝障害が加わると肝酵素の著明な上昇を認めます。下肢では静脈圧の上昇による下腿浮腫と心拍出量低下による易疲労感、筋萎縮による運動能力の低下が助長されます。次に右室の機能評価をみてみると、右室は左室と同じ心拍出量を有しますが、通常右室にかかる圧力は左室の20%程度です。右室壁は左室壁の約1/3と薄いですが、肺高血圧症で右室が血液を拍出する時の負荷(後負荷という)が増大すると、右室の壁厚の肥大と右室の内腔の拡大の両者により代償をおこなおうとします(代償性右室肥大)。しかしこの状態が進行すると右室の拡大が著明となり、右室の充満圧の増大と収縮力減弱が起こり、うっ血と心拍出量の低下をきたして右心不全となります。したがって右室の機能評価には@右室の充満圧の上昇と心拍出量の低下により右心不全の存在を確認することA肺動脈圧・肺血管の抵抗を測定して右室の後負荷を評価することB右室の拡大の度合いを評価することC右室の収縮力を評価していくことをおこなうことになります。右心不全をひきおこす疾患は以下のようなものがあります。
1.心臓が原因とするもの:T左室の機能不全に伴うもの U心筋の疾患(肥大型心筋症など) V先天性心疾患 W心臓弁膜症 X右室の梗塞 2.肺高血圧症:T肺動脈性肺高血圧症 U左室性疾患に伴う肺高血圧症 V肺疾患・低酸素血症に伴う肺高血圧症(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、睡眠呼吸障害など) W肺血栓塞栓症。ようはここに記した疾患からの後負荷の増大が右心不全発症の大きな要因となります。すなわち右室の後負荷が増大した肺高血圧症が主たる原因の一つなのです。
肺高血圧症の最も多い原因は左心不全です。したがって左心不全の治療をおこなうことが右心不全の発症予防、治療になります。またすでに右心不全を併発している場合は、右心不全を治療していくことは生命予後の改善につながると考えられます。たとえば、うっ血の解除は重要であり、そして右室の後負荷の軽減は右心不全の治療に必要不可欠です。
しかし右心不全の治療には、上記にあげた疾患を含めすべてに共通する特異的な治療法は確立されていません。
各原因疾患にあわせた治療法がおこなわれているのが現状です。しかし右室の後負荷である肺高血圧症には現在おこなわれている特異的薬物療法で肺血管の拡張による肺動脈圧の低下・後負荷の軽減を目指すものはあります。したがってその使用による治療が、肺動脈性肺高血圧症による右心不全の予防と治療に必要とは考えられます。しかしこの治療法は右心不全の程度より確立した治療法となっていません。したがって今後も右室に特異的な右心不全の治療法が出現するこの分野の研究の進歩が待たれるところです。
以上今回右心不全について概説いたしました。