お知らせ
家庭血圧、診察室血圧 降圧における優先度は? そして過降圧とは?
高血圧の治療を私達医師が患者さんと伴におこなっていくときは、患者さんに毎日記録していただいている家庭血圧を指標としておこないます。それは診察室での血圧を指標として降圧治療をおこなっていくときよりも、24時間前の自由行動下での血圧が収縮期血圧で約3.6mmHg拡張期血圧で約2.2mmHg低下することが示されているからです。したがって患者さんが記録されている家庭血圧より診察室での血圧がやや高いのは上記に起因すると考えていただければと思います。(各々の測定環境、時間の違いはあるが)そしてこの家庭血圧での降圧目標の達成を目指した降圧の治療は、脳心血管病発症率・死亡率の低下にも有用である可能性が示唆されているのです。
しかし降圧の治療をおこなうときに、患者さんからも時々質問がありますが、血圧の低下度が強いいわゆる過降圧について考える必要があります。過降圧とは降圧によって得られることが予想される利益よりも、起こることが予想される有害事象が強くあらわれることを示します。降圧による血圧のレベルの評価には収縮期血圧を用います。これは収縮期血圧のほうが、血圧をコントロールする場合に問題となることが多く、心血管疾患発症のリスクとの関係が大きいからです。また臓器血流の低下に関しても、収縮期血圧の維持に重点が置かれるからです。過降圧すなわち血圧の低下による有害事象の発現に注意を要する血圧のレベルは次のように考えられます。(1)低リスクの高血圧の人(予後に対する影響因子がない人):初期には収縮期血圧を130mmHgまで降圧します。脳、心臓、腎臓など循環器系臓器に機能障害が認められなければ、収縮期血圧の降圧は120mmHgまでは安全です。収縮期血圧が120mmHg未満の降圧となった場合は、過降圧に対する留意が必要です。(2)高リスクの高血圧の人(65際以上、男性、脂質異常、喫煙のうち3つ以上を有する人、または脳心血管病の既応、非弁膜症性心房細動、糖尿病、蛋白尿のある慢性腎臓病のいずれかがある人):初期には収縮期血圧を130mmHgまで降圧します。次に120mmHgまで降圧できますが、低リスクな高血圧の人とくらべ降圧に伴う循環器系臓器の機能低下に、より注意が必要となります。収縮期血圧が120mmHg未満では過降圧となる可能性があります。(3)高齢者:75歳以上など年齢が高くなるほど個人差がありますが、おおむね収縮期血圧が130mmHgまでは安全に降圧できます。しかし降圧薬の服用により40mmHg降圧が必要な場合は、循環器系臓器機能の低下に対して十分な注意が必要となります。収縮期血圧が130mmHg未満への降圧では過降圧による有害事象の発現に注意が必要となります。(4)冠動脈疾患、脳血管障害、糖尿病、慢性腎臓病などがある人:いずれの人においても収縮期血圧は120mmHgまでは安全な降圧が可能となります。(臓器の血流や機能の低下には注意を要するが)120mmHg未満では過降圧となる可能性に留意は必要です。以上のように過降圧を評価する場合には、血圧値のみならず、非循環器系、臓器を含めた全身状態を把握することが必要となります。また大切なことですが、すでに130mmHgあるいは120mmHg未満に収縮期血圧がコントロールされていて、低血圧による症状や所見がなければ、降圧の程度をゆるめる必要はないということは知っておいて下さい。