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COPD 心不全、動脈硬化制疾患との関連
慢性閉塞性肺疾患(COPD)と心不全は、息切れ、呼吸困難が主症状となり、互いに合併頻度は高いことは知られています。COPDと心不全は喫煙や加齢などのリスク因子が共通し、併存していることが合併頻度の高い1つの理由となります。一方COPDの存在自体も心不全の発症リスクとなります。それはCOPDの慢性炎症による心血管機能の低下、COPDによる交感神経活性の亢進による心臓への負担の増大、COPDに起因する肺高血圧による心臓の負担増大、睡眠時無呼吸の合併による心臓の負担増大などが考えられています。またこれにより心不全を発症すると、肺うっ血(肺の血流の停滞)によりCOPDの呼吸機能が悪化します。すなわちCOPDと心不全は双方向性の関係があるのです。
COPDの人の心不全の有病率は10〜30%と高率です。(一般の人は1〜2%の有病率)心不全の中で左心室の収縮機能の低下(HFrEF)した人の割合は10〜50%に認められます。左心室の収縮機能の保たれた心不全(HFpEF)の人の割合は明らかではありませんが、重症のCOPDの人では、そのほとんどにHFpEFが存在すると考えられています。COPDの人で心不全を有する人は、有しない人と比べると、高齢で、息切れなどの症状は強く、その他の合併症も多いとされています。また心不全を合併しているCOPDの人は、そうでない人と比べ生命予後は不良です。一方心不全の人ではCOPDの合併頻度9〜52%とされており、高率です。
COPDの合併はHFrEF、HFpEFのどちらの人においても生命予後の悪化因子となります。COPDは呼吸機能検査で診断されますが、心不全の人では非代償性心不全の急性期では、検査で通常の場合よりも呼吸機能が悪化していることが多いため、肺うっ血が改善後6〜8週以降に検査をおこなうことが推奨されています。いずれにしても、心不全の人ではCOPDの有無を診断することは治療をする上でも重要となります。またCOPDの人、心不全(HFrEF、HFpEFとも)の人では睡眠時無呼吸を合併することが多く、その合併は生命予後が不良となります。したがって睡眠時無呼吸の診断も重要となります。無呼吸の合併を証明した場合は、治療としてCPAP(持続陽圧呼吸)の導入が生命予後を良好にすることは知られています。
COPDを合併した心不全の人では、心不全の増悪による再入院を防ぐため、生命予後の改善効果が明らかな心不全の治療をおこなうことが求められます。COPDに対する治療は生命予後の改善への効果は明らかでなく、また心不全への影響も明らかではありません。したがって心不全に対する治療が優先されます。心不全に対する治療は詳細は記載しませんが、HFrEFの人に対しては、ファンタスティック4と呼称されている4種類の薬剤の使用が推奨されています。HFpEFの人に対しては、ながらく有効な薬はありませんでしたが、最近では1〜2種類の有効薬が示されており、その使用が推奨されています。
次にCOPDと動脈硬化性疾患との関係を考察します。COPDの人における虚血性心疾患の発症率はCOPDでない人と比べ、1.69倍と高率な発症率が示されています。また急性心筋梗塞を発症した人がCOPDを合併した場合、合併していない人と比べ、死亡のリスクは1.51倍に上昇したとの報告があります。COPDの人では早期から血管の内皮機能の低下、頸動脈の内膜中膜の肥厚、脈波の伝播速度の亢進など動脈硬化の促進が認められます。
その理由としては、COPDの人の喫煙が第一にあげられます。またCOPDによる肺の慢性炎症も動脈硬化を進行させます。そしてCOPDの人では低酸素血症により交感神経が活性化されており、このことは動脈硬化の進展のみならず、心筋梗塞をはじめとした、循環器疾患の発症に直接関与しています。
したがってCOPDを有しているだけで動脈硬化の進展に中長期的に悪影響を及ぼします。さらにCOPDの急性増悪後には動脈硬化性疾患の発症が高率となることが報告されています。
これは急性増悪直後から動脈硬化性疾患の発症リスクが高まり、その後徐々にリスクが低下していくというものです。(急性増悪後30日までは発症リスクが3.8倍となり、時間経過とともに低下する)
COPDに対する薬物治療により動脈硬化性疾患の発症リスクを低減できるのかという問題に対しては、研究、検討の段階でありますが、近年使用されるCOPDに対する治療薬により、COPDの増悪の改善、心血管関連疾患の増悪による死亡が抑制されたとの報告があります。さらなる研究の進歩が期待されるところです。
以上今回はCOPDと心不全、動脈硬化性疾患との関連について記載しました。