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大動脈・末梢動脈疾患 睡眠時無呼吸との関連・治療

大動脈乖離(AD)(大動脈壁が内膜・中膜・外膜のうち中膜のレベルで2層に剥離し、大動脈の走行に沿ってある長さをもち2腔になった状態)に合併する睡眠時無呼吸(SDB)は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が主となります。OSAのADの発症に関わる病態としては、閉塞性無呼吸時の吸気努力による胸腔内の陰圧化、無呼吸から覚醒する際の交感神経の過活性を介した血圧の上昇、OSAによる間欠的な低酸素血症とOSA解除後の再酸素化を介した酸化ストレスが考えられます。吸気努力による胸腔内陰圧化は-50~-80cmH20に及ぶと報告されており、大動脈の血管壁のストレスの原因となります。またOSAによる交感神経の活性亢進は夜間のみならず日中にも遷延するとされ、その過活性を介した夜間高血圧や日中の血圧高値は、動脈硬化や大動脈壁へのストレス増大に寄与します。 さらにOSAによる酸化ストレスは血管の内皮障害を介して、大動脈の異常(リモデリング)に関わると考えられます。一方OSAを合併するADの人は、ほかの動脈硬化性疾患の人同様にESS(エプワース眠気尺度。 その人の日中の眠気を評価する)は高くないとされており、したがってADの人では主観的眠気の有無に関わらずSDBのスクリーニングをおこなうことが望ましいとされています。ADとSDBの重症度の関連については、胸部ADの人ではAHI(1時間あたりの無呼吸・低呼吸を表す指標)が有意に高く、重症のSDBを合併する割合が高いことが報告されています。SDBを合併した、ADの人の生命予後に関する明らかなものはありませんが、解離した下行大動脈の内腔(真腔と偽腔がある)の、偽腔の拡大とOSAの重症度に関連があることが報告されています。OSAに対する治療であるCPAP(間欠的陽圧呼吸)のAD発症や再発抑制効果については証明されていません。次に大動脈瘤(大動脈の壁の一部が、金周性または居所性にに拡大または突出した状態)では、胸部大動脈瘤/腹部大動脈瘤に合併するSDBはOSAが主となります。 OSAの大筋脈瘤発症に思わる病態は、ADの発症とほぼ同様と考えられまた無呼吸から覚醒する際の血圧の上昇は80mmHgに及ぶとされており、このくり返す急激な血圧の変動は、大動脈壁へのストレスを介して大動脈の拡張をきたすと考えられます。吸気努力による胸腔内の陰圧化は、胸部大動脈を拡張させると考えられ、またOSAに伴う酸化ストレスは動脈硬化の原因となりうります。OSAと胸部大動脈の拡張に関しては、OSAを有する人はOSAを有しない人とくらべてCTでの平均の上行大動脈径が5.3mm大きかっ た。また腹部大動脈瘤の人ではSDBは重症な人はSDBのない人とくらべ、大動脈径の拡大率が年単位あたり有意に高かったと報告されています。さらにOSAを合併するマルファン症候群の人は、0SAを合併しない人とくらべ大動脈径が大きいことが報告されており、OSAは大動脈疾患のリスク因子と考えられます。
SDBに対するCPAP治療の大動脈臓を有する人における生命予後に関しては、OSAを合併するマルファン症候群の人に対してCPAP治療をおこなうことにより、大動脈径の増大が減弱するという報告もあり、大動脈瘤と対するCPAP治療の生命予後改善効果は期待されます。
閉塞性動脈硬化症(PAD 末梢動脈疾患)とOSAについては、OSAが動脈硬化を促進することにより、脳卒中や冠動脈疾患と同様にその関連は報告されています。SDBを合併したPADの人の生命予後に関しては、下肢の動脈の血行再建術をおこなう人を対象にしたOSAの心血管疾患への影響に関する調査報告があります。それによると、AHI≧20のOSAの人の心血管疾患(心臓死、心筋梗塞、冠動脈血行再建術、入院を要する狭心症、脳卒中)の発症率はAHI<20の人とくらべてて5.1倍になったとされています。
つまり、PADの長期の生命予後にOSAが影響する可能性が示唆されるのです。
SDBに対するCPAPのPAD発症およびその進展抑制効果については明らかになっていません。
しかしPADは冠動脈疾患などの他の動脈硬化性疾患を合併する割合が高く、またOSAは冠動脈疾患や脳血管疾患の予後不良因子であることが知られています。したがってPADの人におけるSDBのスクリーニングや特に重症のOSAの人のCPAP治療は高い意義があると考えられます。
以上今回は大動脈/末梢動脈疾患とSDBの関連及び治療について概説しました。