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不整脈 運動の許容の条件

運動ないし身体活動を適度におこなうことは、心血管疾患の予防や健康に有益で、また不整脈発生の抑制効果が期待できます。適度とはたとえば30分以上の中等度の有酸素運動を週に2.5時間以上、あるいは20分以上の高強度の運動を週に75分以上(30分以上の)、あるいは中等度と高強度の運動を組み合わせて週に500〜1000MET・時間以上おこなうことです。ここで身体活動(運動)の強度の程度は3MET未満、中等度は6MET未満、高強度は6MET以上で分類します。(1METは1.0kg/kg/hrでMETは代謝当量といい、安静時代謝に対する活動時代謝の比で表されます)
一方で運動習慣のない人の急な運動、特に高強度の運動は、不整脈など有害事象をもたらすリスクがあります。
不整脈に対する運動を考える際には、基礎心疾患(心筋梗塞、心筋疾患、心不全、先天性心疾患術後など)の有無を考慮します。基礎疾患のある人では運動療法をおこなうことで、心筋の虚血の改善、交感神経の抑制などにより不整脈基質(心筋の構造的、組織学的異常)の悪化、進展が防止される効果が期待できます。今回は不整脈のある人の許容できる運動に関して記載します。
@徐脈性不整脈:アスリートの人では無症候の洞徐脈(50/分以下の心拍数)や運動により改善する2度の房室ブロック(ウェンケバッハ型)(房室ブロックとは心臓の上部の心房と下部にある心室を電気信号でつなげる房結結節の働きが悪くなり、心房の興奮が心室まで伝わらない状態。程度により1〜3度に分類される)の場合は運動の制限はありませんが、症状がある場合や、房室ブロックが改善しない場合(安静時および運動時)には心臓に対する検査が必要となります。
A脚ブロック(心室における電気刺激が通過する右脚または左脚の障害により、刺激の伝導が障害されること):完全右脚ブロックでは、心室期外収縮がなく、運動で2度以上の房室ブロックが出現しなく無症候性の人では運動制限の必要はありません。右脚ブロックに左脚の一部に伝導障害がある人の場合(左軸変位)は房室ブロックに進行する場合があり経過観察をおこなう必要があります。左脚ブロックの人では器質的な心疾患がなく、房室ブロック(2度以上)への進行を認めなければ運動制限の必要はありません。脚ブロックあるいは1〜2度以上の房室ブロックは会社などでの健康診断で指摘されますので、クリニックを受診されることです。
B心房期外収縮、心室期外収縮:心房期外収縮(PAC)は加齢とともに増加しますが、運動との関連は一定ではありません。PACは頻発しても血行動態に破綻はきたしませんが、将来の心房細動(AF)の発症との関連はあり留意する必要はあります。心室期外収縮(PVC)は単一の波形(単形性)で運動中または安静時に単発するか、2回続けて発生する場合(2連発)には、その人の運動の制限は必要ありません。運動中や運動後の回復期にPVCが増加する人や、PVCの波形が単一ではない(多源性)場合や3回以上続けてPVCが発生する場合(3連発以上)は、精密検査が必要となります。特に運動により増加する右脚ブロック型のPVCの人では精密検査が必要です。
C心房細動、心房粗動:心房細動(AF)は高強度の運動で誘発されるもっとも多い不整脈です。身体活動・運動とAF発症のリスクは一般の人、アスリート、また年齢によって異なります。一般の人では日常生活の活動度が高いとAFの発症が抑制される可能性があります。低強度と高強度の運動にくらべ、中強度の運動でAF発症のリスクは低いとの65歳以上の人を対象とした米国からの研究報告があります。持久的体力では体力の向上とともに心房細動/心房粗動(AFL)の発症リスクは低下し、運動の耐容能の低い人にくらべ、中等度の人、高度な人になるにつれてAF/AFL発症のリスクは低くなるとの報告があります。AF(発作性、持続性、永続性のいずれか)の人では中強度の運動で体力と生活の質(QOL)は向上し、一方長期間の高強度の運動はAF及びAFLの発症リスクを増加させます。
したがって、AFの人の運動強度は心拍数で安静時60〜80拍/分、中等度の運動では90〜115拍/分が推奨されています。安静時で110拍/分を超えている場合は、その日の運動を中止するか、運動強度や運動時間を軽くすることが必要です。
D心室頻拍:器質的心疾患がなく、単形性の心室頻拍治療後3カ月以上心室頻拍(VT)を認めないアスリートでは競技スポーツへの復帰は可能です。3連発以上のPVCを認めた場合は運動を中止する必要があります。
上記以外にも記載したい不整脈や心疾患あるいはペースメーカ植込み後の人の許容できる運動の程度がありますが、説明が難しくなるため省略します。要は心電図異常を健康診断などで指摘されたり、安静あるいは運動時に動悸・めまいなどを自覚された場合は循環器クリニックを受診することです。そこで運動の可否、許容できる運動の強度が説明されると思います。