お知らせ
遺伝性高血圧
高血圧の大部分を占める本態性高血圧は、複数の遺伝因子と環境因子が関与する多因子疾患です。高血圧を有する両親の兄弟では一般の人とくらべ3.5倍の高血圧の発症リスクがあるとされ、遺伝因子の高血圧発症に対する寄与度は30〜70%と推定されています。
一般の人々において一定割合以上に認められるすべての遺伝情報(ゲノム)の配列の個人差を遺伝子変異(ないし多型)とよびます。このなかに一般的な変異とまれな変異が含まれます。
ゲノム全体を網羅的に解析(ゲノムワイド関連解析(GWAS))することにより、遺伝因子の中で一般的な変異が同定されます。そして高血圧に関連する遺伝因子が存在する染色体上の位置の相違はゆうに500を超えるとされています。しかし個々の変異による血圧の影響は1mmHg程度であり、変異情報のみによる本態性高血圧の診断は困難と考えられます。また異なる人種のGWASの結果、遺伝因子変異の割合、血圧への影響に関しては人種差が少なからず存在することも示されています。そして日本人においては食塩感受性を高める候補遺伝子変異の頻度が高いことが報告され、減塩をはじめとする生活習慣の修正や降圧薬の選択に遺伝子変異の情報が役立つ可能性があります。一方遺伝因子でもまれな変異だが血圧への影響が比較的大きい変異があることも報告されており、その遺伝因子変異情報に基づいて診断や治療法が規定・変更されうる人達が存在します。これに対して、非常にまれですが、単一の遺伝子変異に起因し、遺伝子の解析により診断が可能とする先天性の血圧異常症が複数明らかになっています。たとえば遺伝性高血圧ではリドル症候群、ゴードン症候群、ミネラルコルチコイド過剰症候群他、複数あり、遺伝性低血圧ではバーター症候群、ギデルマン症候群、偽性低アルドステロン症T型他があります。(各々の臨床症状は略)一般に遺伝子解析まで必要とする疾病はまれですが、たとえば若くして高血圧を発症し、血漿のレニン(腎臓で分泌されるタンパク質分解酵素で血圧を上昇させる)活性が著しく低く、血清カリウムの値の異常などがあり血圧に対する治療に抵抗性を示す人では遺伝性の高血圧の可能性が考えられます。本態性高血圧症が疑われ、遺伝子解析を希望される場合、専門とする解析施設での解析が必要となります。(ヒトゲノム、遺伝子解析に関する倫理指針に準拠する必要あり)以上、遺伝性高血圧に対して記載しましたが難しくなりましたね。つまり遺伝性高血圧に関して要約すると@本態性高血圧は遺伝因子、環境因子が関与する多因子の疾患であり、個人差の30〜70%が遺伝因子の影響をうける。A一般の人達における個々の遺伝子変異の血圧への影響は1mmHg程度と小さく、人種差が少なからず存在する。日本人の食塩感受性候補遺伝子変異の割合は大きい。B血圧への影響が比較的大きいまれな遺伝因子の変異が報告されている。C単一遺伝子変異に起因する先天性の血圧異常症は存在するが、まれであると言うことです。理解されましたか?