お知らせ
気管支喘息 増悪の危険因子・併存症
気管支喘息の管理目標は増悪や喘息症状がない状態を保つことや将来のリスク(喘息死、急性増悪、呼吸機能の経年低下など)の回避があります。気管支喘息の増悪とは、平常時にくらべ明らかに息切れ、咳、喘鳴、胸痛などの呼吸器症状が増強するとともに呼吸機能が低下し、治療の強化・変更が必要となる状態を指します。増悪は必ずしも重症な人のみならず、軽症の人やコントロール良好な人にも生じ、そして一度でも増悪をおこした人は再び増悪をおこしやすくなります。したがって増悪をくり返す人では、その危険因子や併存症を十分に把握し、対策をたてることが、気管支喘息の治療を進めるうえで重要となります。
今回は気管支喘息の増悪の危険因子・併存症とその対策について記載します。@鼻炎・副鼻腔炎:わが国では喘息の人の約7割が鼻炎を合併しており、合併している人では喘息のコントロールは不良です。そしてその治療は喘息の増悪による入院や医療機関への予定外受診を減らします。A食物アレルギー:成人においてはその合併による入院や全身性ステロイド薬による治療のリスクとなるため、アレルギーの原因となる食物(アレルゲン)の回避が必要です。B肥満:喘息症状や増悪頻度の増加と関連してQOLを低下させ、種々の抗喘息薬に対する反応性を低下させます。体重のコントロールによる減量により症状や呼吸機能は改善できる可能性はあります。C月経・妊娠:約3〜4割の女性で月経前に呼吸機能の低下を認めます。これに対してロイコトリエン受容体拮抗薬の内服が有用との報告があります。妊娠中の喘息の人では約2割で喘息の増悪を生じ、特に重症喘息の人で頻度は高くなります。妊娠中の増悪は極力回避すべきであり、吸入ステロイド薬を中心とする薬物治療を継続する必要があります。D睡眠時無呼吸:この合併は喘息増悪のリスク因子であり、CPAP(持続陽圧呼吸)治療により喘息症状への好影響が示唆されています。E胃食道逆流症:喘息の人は合併する頻度が高く、合併していない人とくらべ喘息のコントロールは不良です。胃酸分泌抑制療法(PPI内服)は逆流を合併している人では喘息のコントロールの改善を認めます。FCOPD:喘息とCOPDの合併はそれぞれ単独な場合とくらべ、症状のコントロールは不良で増悪のリスク因子です。G喫煙:呼吸機能や症状を悪化させ、喘息薬の効果を減弱させます。さらに副流煙も増悪リスクとなります。したがって禁煙のみならず受動喫煙の回避にも努めるべきです。Hアレルゲン曝露:喘息の人におけるダニ抗原のコントロールによる効果は寝具類のカバー、防ダニ剤、掃除機エアフィルターなどの有効性を示す報告と否定的な報告があり、治療効果の予測は困難とされています。ペットアレルゲンの除去も重要ですが、ネコやイヌなど屋外に出るペットでは学校や交通機関などの公共の空間で抗原が検出されることもあり、その臨床的効果は十分に示されていません。ハムスター、モルモットなど屋内で飼育するげっ歯類の抗原の回避は喘息症状の改善に有効性は示されています。I気象:気温や気圧の変化、雷雨、黄砂なども喘息の増悪をおこすため、コントロール不良の人では気象予報などを参考にして外出することは必要となります。J大気汚染:オゾン等の大気汚染物質が喘息症状の増悪、救急受診、入院との関連が指摘されています。PM2.5、黄砂などによる大気汚染状況については気象予報などの情報をもとに外出計画やマスク着用などの対策をたてることを考慮されることです。気密性の高い室内では、暖房器具や建材から発生する窒素酸化物、ホルムアルデヒドが喘息増悪のリスクになりうるため室内の換気は必要です。Kアルコール:アルコールで喘息発作の増悪が誘発される人では、飲酒やアルコール含有飲食物の回避が必要です。抗ヒスタミン薬の内服の有用性も示唆されています。LビタミンD低下:喘息の増悪との関連やビタミンD補充による効果についての報告はありますが、一定の治療に対する見解はまだありません。M薬物:アスピリン喘息(AERD)の人では、NSAIDs(消炎鎮痛薬)の服用をさけることは必須です。N呼吸器感染症:インフルエンザウイルス、ライノウイルス、RSウイルスなどのウイルス感染と喘息の増悪との関連性が示されています。接種できるワクチンは中等症以上の喘息の人では接種が勧められるます。
以上のように、喘息の増悪となる因子・併存症は多数あります。(本文に記していない因子も複数ある)。したがって喘息の治療をおこなっている人は安易に自分の判断で喘息薬の減量や中止をされることは危険です。本文でも記載したように軽症やコントロール良好な人でも増悪は生じます。最悪の場合喘息死に直面することもおこりうります。(軽症24%、中等症33.0%、重症39.2%←喘息死前の喘息重症度)
よって喘息のコントロールが良好で治療のステップダウンを希望される場合は、医師との相談のうえ順序だってされることの必要性を追記しておきます。