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左心耳閉鎖術

左心耳閉鎖術は非弁膜症性心房細動の人に対して、血栓予防(脳塞栓、全身性塞栓症など)に用いる抗凝固薬の代替治療としておこなわれます。日本では2019年に閉鎖術をおこなうためのデバイス(装置)(WATCHMANデバイス)が使用可能となっており、2021年7月現在世界各国で約20万人の人に使用されています。非弁膜症性心房細動の人の塞栓症予防に使用されているワルファリンに対してWATCHMANデバイスは有効性の評価項目とされる脳卒中、全身性塞栓症、心血管死/原因不明死および安全性評価項目とされる重大な出血などに有意な差を認めませんでした。一方、脳塞栓などの虚血性脳卒中の発現率は両群で有意な差はありませんでしたが、出血性脳卒中、後遺障害を伴う非致死性脳卒中、心血管死/原因不明死の発現率はWATCHMANデバイスで有意に低下しており、これらの結果より、WATCHMANデバイスは、血栓塞栓症に対する抗凝固療法として推奨されます。WATCHMANデバイスは左心房の中の左心耳(非弁膜症性心房細動の人の約90%以上に血栓塞栓が形成される部位)にカテーテルを用いて植込まれますが、その使用の日本での適応は長期的な抗血栓・凝固療法が推奨され、かつ出血リスクが高い人に対する治療とされています。具体的には@血栓リスクの指標として用いられるスコア(CHADS2またはCHADS2-VAScスコア)に基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高く、抗凝固療法が推奨される人A短期(約45日間程度)にはワルファリン投与が適応可能と事前に判断される人B抗凝固療法が長期間実施できない出血リスクの高い人です。Bを細分化すると a.出血リスクスコア(HAS-BLEDスコア)が高い人 b.転倒に伴う外傷に対して治療を必要とした既往が複数回ある人 c.抗血小板薬の2剤以上の使用が長期(1年以上)にわたって必要な人 d.びまん性脳アミロイド血管症の既往のある人 e.出血学術研究協議会(BARC)が規定する大出血に該当する既往を有する人となります。
左心耳閉鎖術の周術期合併症としては、血栓塞栓症、心タンポナーデ(心臓と心臓をおおう心外膜の間に液体が大量に貯留し、心臓の拍動が阻害された状態)、デバイスの左心耳植込み後の周囲への残存血液のリーク、デバイスの左心房内への脱落によるデバイス塞栓などがあげられますが、現在では心タンポナーデ1.0%など合併症は低減しています。しかしデバイス塞栓症など緊急な開胸を必要とする合併症が起こる可能性はあるため、心臓外科のバックアップ体制のもとで操作をおこなうことが必要となります。左心耳閉鎖術後はデバイス植込み後の血栓が約4%で認められるため、それに対する予防的な治療が必要となります。その中に抗凝固薬の一定期間の投与、その後の抗血小板薬の2剤の一定期間併用投与、それ以降の抗血小板剤の単剤投与という治療法がありますが、確立されたものはありません。すなわちその人の抗凝固薬、抗血小板薬使用に伴う出血リスクを考慮し、デバイスによる血栓を防ぐための最適と考えられる抗血栓療法を検討するということになります。以上、左心耳閉鎖術は非弁膜症性心房細動の人に対する新たな治療法として登場し、広くおこなわれてきています。抗凝固薬の長期投与 (カテーテルアブレーション後の心房細動の再発を繰り返す人に対する長期投与を含む)が困難な人の有効な治療法となるものと考えられます。