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心不全と糖尿病 関係・治療

糖尿病は高血圧、脂質異常症とともに、動脈硬化の一因であり、虚血性心疾患(IHD)発症の原因となります。
さらに、糖尿病は動脈硬化を介して心不全とも深いかかわりがあります。一つはIHD進行による心不全ですが、それだけでなく、直接的心筋障害による糖尿病性心筋症を引き起こすことで心機能障害を進行させることです。そして糖尿病に合併したIHDや心不全は重症化しやすく、生命予後も不良となります。また一般の人とくらべ、心不全の人の糖尿病合併は明らかに高く、したがって心不全と糖尿病は悪影響を及ぼしあう相互関係にあることが示唆されます。今回は心不全と糖尿病の関係、治療について記載します。
糖尿病は上記のようにIHD発症の原因となります。IHDの進行は進行性の心筋障害をきたし、初期には心室の拡張障害が出現し、末期には高度の心室の収縮障害を呈した虚血性心筋症へいたります。
また、糖尿病の人ではIHDの合併がなくても心機能障害は出現することはあり、糖尿病性心筋症といわれています。糖尿病症性心筋症の初期は心室の拡大を伴わなく、心室の壁が心臓の内側にむけて肥大する求心性肥大という病態を呈します。そして高血糖の状態が持続するとレニンーアンギオテンシン系(腎臓で産生されるレニンを起点とする昇圧代謝系)の活性化がおこり心筋の障害を進行させます。また糖尿病に伴う細少血管障害は心筋の組織における微少循環障害をひきおこし、糖尿病性神経障害として生じる自律神経障害とともに心機能の障害を進行させます。結果として生じる心筋の硬化は、心室の拡張機能障害、心房の拡大などをもたらし、心室の拡張機能障害が出現します。糖尿病の人の心室の拡張機能障害は、高血圧がなく血糖のコントロールの良好な人においても約50%で存在します。糖尿病の罹病期間が長期になると、しだいに心室の収縮機能障害が出現します。糖尿病を合併したIHDや心不全の予後は不良となることが多いですが、非虚血性心不全の人においても、糖尿病の合併は重要な生命予後の悪化因子となります。
糖尿病の人に合併する無症状の心室の拡張障害は年齢、BMI、性別、高血圧や冠動脈疾患とは独立して心不全発症と死亡に関連すると報告されています。非虚血性心疾患である拡張型心筋症は糖尿病を合併する人が被合併の人とくらべ、遠隔期の心不全の増悪あるいは死亡の発症率が高いことがその代表する例です。
糖尿病と心不全は複雑な病態形成がありますが、治療は心不全に関しては糖尿病の合併の有無で異なる点は基本的には存在しません。すなわち心不全の治療薬として確立している薬を使用することになります。
糖尿病の治療では、心不全を合併している人では、その増悪の抑制などを見すえて使用する薬を選択することに変遷しています。それは糖尿病のひとにおける心不全の増悪抑制効果が次々と明らかにされたSGLT2阻害薬が上市されたからです。現在同薬による心不全の抑制効果は糖尿病の有無に関係のない効果であることは証明されており、心不全の治療薬としての位置づけは確立したものとなっています。さらに同薬は心臓だけでなく、腎臓に対する保護作用も見出されています。つまり同薬の使用による心不全による入院または心臓血管死の抑制が証明されているのです。したがって心不全で糖尿病を合併している人は、心不全の基本的な治療薬となっているSGLT2阻害薬を他の心不全治療薬と伴に早期に使用し、その上で血糖の管理が不充分であれば他の糖尿病に対する薬剤を追加として使用することが一般化しています。このようにここ数年で糖尿病と心不全を合併した人に対する治療は変貌をとげ始めています。今後のさらなる同病態に対する治療・研究の進歩に着目するところです。以上今回は糖尿病と心不全の関係および治療に関して記載しました。