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心不全  抑うつ・認知機能障害等併存の影響・その治療

心不全の人に最もよくみられる併存疾患・生命予後規定因子の1つとして抑うつ(36.2%)が知られています。また、心不全の人の56%に何らかの不安が認められ、そのうち顕著な不安は29%、不安症は13%にみられると報告されています。抑うつ、不安や心理的苦痛は生活の質(QOL)の低下、再入院、動脈硬化の進行、動脈硬化危険因子(高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙など)への悪影響、心血管疾患の増加、全死亡と関係します。抑うつ、不安などは心血管危険因子であり、男性よりも女性の心臓病発症に大きく寄与している可能性が示唆されています。致死的な不整脈を生じる人に植込まれる植込み方除細動器(ICD)による治療をうける人の11〜26%に不安症が、そして11〜28%の人に抑うつが生じ、ICD作動のリスクが増大することが示唆されています。抑うつ、不安には心理社会的介入、薬物療法、運動療法と心臓リハビリテーション、グループによるサポート、などが精神症状の改善、心理社会的な苦痛の改善、幸福感の収徳、心血管危険因子の改善、総死亡を含む心血管疾患を減少させることが示されています。一方、β遮断薬と抗うつ薬である選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の同時服用で抑うつを有する心不全の人の死亡率の上昇が報告されており、これらの人に対する合意の得られた治療法は得られていません。なお、三環系統うつ薬は低血圧、心不全の悪化、不整脈を引きおこす可能性があるため、心不全の人の抑うつ治療のための使用は避けるべきとされています。認知機能障害は、心不全の人に最もよくみられる併存疾患、生命予後、規定因子の1つとして知られています。認知機能障害には認知症、軽度認知機能障害(MCI)、せん妄が含まれます。心不全の人では25%〜75%と高率に認知機能障害を合併し、MCIは24%、明確な認知症は15%にみられます。心不全の人に認知機能障害が高率に合併する理由として、@高血圧や糖尿病などの認知機能障害の危険因子の合併 A血行動態の異常や心臓の血液の拍出量の低下による脳の血液灌流圧の低下の影響が考えられます。
認知機能障害の合併率と重症度は心不全の重症度と相関します。急性の脳の機能障害であるせん妄は意識と注意の障害が中心となる病態です。高齢の急性心不全を発症した人では17%にせん妄の合併がみられたとの報告があります。認知症、抑うつと鑑別し、早期に介入をおこない、重症化を回避することが重要となります。心不全にせん妄が合併する要因としては、心臓の機能低下、脳の血液の灌流圧の低下、代謝の障害、電解質の異常、感染症、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用などがあります。せん妄は長期的には認知症につながる可能性が示唆され、心不全の人の死亡のリスク、再入院率の上昇、心不全入院の長期化につながることも指摘されており、その的確な診断が重要となります。せん妄の予防には早期の離床と環境の調整が重要となります。心理的なストレスは冠動脈疾患のリスク因子として知られています。ストレスのコントロールと運動療法の組み合わせにより、それによる総死亡や心血管疾患の抑制効果が示されています。
妊娠中の心臓の疾患は、妊産婦死亡の主な原因となっています。妊娠を計画している女性に対しては、その人(パートナーを含む)に抑うつ、不安、認知機能障害がある場合、併存することによる病態を適切に評価し、十分な心理社会的支援の実施が必要とされています。精神・心理的フレイル(虚弱)は抑うつや軽度認機能低下などを呈する状態ですが、フレイルは可逆性の特徴をもつ状態なので、包括的な介入により回復を目指すことが肝要です。なお高齢の心不全の人では、社会的な孤立が生存率と関連したことが示されています。以上今回は心不全の人に併存する抑うつ、不安、認知機能障害や精神心理的問題を記載しました。