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深部静脈血栓症  治療方法(特に経口抗凝固薬)

深部静脈血栓症(DVT)は四肢の心筋膜より深部を走行する深部静脈に生じた血栓症です。(以前のWebでも記しました)上肢より下肢に生じやすく、血栓の存在部位により膝窩静脈を含み、より中枢にある血栓を中枢型(近位型)、膝窩静脈より抹消の血栓を抹消型(遠位型)と分類します。
中枢型DVTは右側より左側に多いとされています。抹消型DVTの多くはヒラメ筋静脈から生じます。
DVTは後述するようなさまざまな症状を呈しますが、危険なことは深部静脈血栓が遊離し、肺動脈へ流入することで急性肺血栓塞栓症(PTE)を発症することです。急性PTEの臨床像は、まったくの無症状で画像検査で偶然みつかるような軽症例から、発症と同時に心停止に至る重症例まで、肺動脈を閉塞する血栓の量やPTEを発症した心肺の予備能によって大きく異なります。PTEの塞栓源は上記のように90%以上は下肢の深部静脈あるいは骨盤内静脈由来となります。このようにDVTとPTEは密接に関連しており、一連の疾患群としてとらえられ静脈血栓症(VTE)と総称されます。DVTの発症率は、中枢型中心の症候性のみか、無症候性の抹消型を多く含むかなど、診断の根拠により変わります。
疫学調査の発症数では2006年の調査では、その発症率は年間100万人あたり120人と、以前にくらべ上昇傾向にあります。(米国での発症数は年間100万人あたり480人とされている)下肢DVTの発症率は末梢型の方が多く、スクリーニングで高率に発見されます。抹消型から中枢型への進展は3〜3.7%に認められるとされています。
血栓形成の3大要因は、@血流の停滞 A血管内皮障害 B血液凝集能の亢進とされており、その例をいくつか示します。@長期の臥床、肥満、妊娠、下肢マヒ、下肢ギブス固定、長時間の座位 A各種手術、外傷、骨折、カテーテル検査・治療、喫煙、VTEの既応 B悪性腫瘍、妊娠・産後、各種手術、外傷、骨折、熱傷、感染症、脱水。DVTの症状と所見には多くの場合、片側肢の腫張や浮腫、疼痛、色調変化、熱感、下腿の把握痛がみられます。下腿限局型のDVTでは無症状のものも多く認めます。また、まれではありますがDVTが重症化すると、有痛性白股腫(腸骨静脈に急速に大量の血栓が生じることで下肢の著名な腫張と動脈攣縮を生じ、下肢が蒼白となる)や有痛性青股腫(血栓が広範囲に及び、下肢が腫痛緊満、持続性の激痛、チアノーゼを呈する)から頻脈やショックといった全身症状が引き起こされることもあります。DVTの慢性期には血栓後症候群(PTS)(DVT後の血栓の遺残、静脈弁の破壊による逆流などで慢性的に静脈うっ帯の症状、所見が出現し、最終的には難治性である静脈性潰瘍を呈する病態)とよばれる症状を呈します。DVT後3カ月頃より出現し、経年的な悪化がみられます。症状・所見には疼痛・こむら返り、重苦感、知覚異常、腫張、静脈瘤、下肢圧迫による痛みなどで重症型では静脈性皮フ潰瘍を呈します。急性DVTの確定診断は画像診断によっておこなわれます。それは造影CT、下肢静脈超音波検査、MRI検査、静脈造影検査などがあります。現在は前2者が標準的な画像検査となっています。一方DVTの疑いが弱い場合は、Dーダイマー(血栓が溶解された時に生じ、血栓の存在を間接的に評価するマーカー)検査を施行し、陰性であればほぼDVTは否定的と判断できるため画像検査を実施しなくてよいと考えられます。DVTの疑いが強い場合は、Dーダイマー検査は実施せず画像診断をおこないます。DVTの治療の目標は@早期症状の改善・血栓の進展予防 APTEの予防 BDVTの再発の予防 C晩期後遺症であるPTSの軽減です。中枢型DVTを発症した人ではDVTの再発率は高くなります。しがたって一過性のDVT発症の高危険因子(全身麻酔を伴う大手術、骨折など)をもつ中枢型DVTの人は誘因がなくなると再発率が低くなるため、抗凝固療法は3カ月おこないます。
一過性の低危険因子(妊娠など)をもつ中枢型DVTの人の再発率は誘因が不明で発症した中枢型DVTの人と高危険因子をもつ中枢型DVTの人との中間となりますが、3カ月の抗凝固療法をおこないます。また誘因が不明の中枢型DVTの人や、持続性の誘因(活動性の癌など)による中枢型DVTの人で出血リスクが少ない人では、可及的長期の低用量の直接経口凝固薬(DOAC)の服用が推奨されます。抹消型DVTは症状があっても2週間以内に血栓の中枢側への伸展がなければその後の伸展はないとされています。したがって抹消型DVTの人には画一的に抗凝固療法をおこなうことはさけ@抗凝固療法をおこなわずに7〜14日後に超音波検査で中枢側への伸展の有無を観察する A再発の高リスクの人のみに抗凝固療法をおこなうことが妥当と考えられます。
スクリーニングや偶発的な検査で発見された無症候性抹消型DVTの人は、超音波検査での経過観察と理学療法がより推奨されます。有症状の人、VTE既応のある人、大きな新鮮血栓のある人、下肢整形外科疾患のある人、癌手術周術期、化学療法中の人などは、抗凝固療法が有用である可能性がありうります。しかし再発が少ないので、多くの抹消型DVTの人の場合は、3カ月の抗凝固療法が妥当と考えられます。
DVTに対する治療としては他にカテーテルにする治療、外科的な治療がありますが今回は省略します。
DVTの理学療法は急性期の症状改善や中枢型DVTの人のPTS予防のために圧迫療法(弾性ストッキング、弾性包帯など)が考慮されます。また静脈性潰瘍など重症のPTSの人は弾性包帯の装着、弾性ストッキングの着用が推奨されます。以上今回はDVT及び治療の最近の方法(特に抗凝固薬の試用期間など)に関して記載しました。参考にして下さい。