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心血管疾患(冠動脈疾患)の一次予防としての慢性腎臓病の存在・治療

慢性腎臓病(CKD)は腎障害や腎機能の低下が持続する病態を表す臨床診断学的定義です。
CKDは心筋梗塞や脳卒中、心不全などの心血管疾患(CVD)や死亡のリスクを上昇させることが国内の研究でも示されており、CAD(冠動脈疾患)の一次予防の対象としてのCKDは重要です。日本人のCKDの人は約1330万人と推計され、成人の約8人に1人はCKDであり、特に高齢の人ではCKDの有病率は高いです。CKDの多くは自覚症状に乏しいですが、血液、尿検査で診断は可能です。このため健康診断や医療機関での検査によってCKDを早期に診断し、適切な治療を行うことで、CKDの重症化を防ぎ、CVDの発症を抑制することが重要とされています。
CKDは上記のように透析療法や移植が必要なESKD(末期腎不全)のリスクを上昇させることに加えて、動脈硬化を促進し、CVDの発症率と死亡率も上昇させることが知られています(心腎連関という)。たとえば日本では、欧米の研究結果と同様に、CKDの人は正常腎機能の人と比較してCVDの発症頻度が高いことが報告されています。またCKDの存在は、CVDと全死亡のリスクとなり、さらにGFR(糸球体濾過量)が低下するほど(腎機能が低下するほど)CVDの相対リスクの上昇が認められます。
また同時にアルブミン尿や尿蛋白の存在は、ESKDのみならずCVDの独立した危険因子となることが示されています。(アルブミン尿、蛋白尿が高度なほど、またGFRが低下しているほどCVD発症のリスクが高くなり、そして両者が合併するとリスクは相対的により高くなる)したがって日本の腎臓病学会からの重症度分類は、原疾患(Cause:C)、腎機能(GFR:G)そして蛋白尿(アルグミン尿:A)を組み合わせたCGA分類(CKD-CGA分類という)が作成され、使用されています。CKDの診断とCKDの重症度評価のためにはGFRによる腎機能の低下とアルブミン尿・蛋白尿の測定の両者の評価が必要不可欠ですが、アルブミン尿・尿蛋白を用いた腎障害の評価は、いまだ臨床の現場では一般化していません。CKDの人におけるESKDとCVDのリスクはCKD-CGA重症度分類での重症度にしたがって増加しますが、原疾患によって増加の程度が異なることが報告されています。たとえばCKDの人のうち糖尿病(糖尿病性腎症)、高血圧(腎硬化症)を原因とするCVDの発症のリスクは慢性腎炎を原疾患とするCKDの人と比較してそれぞれ約5.9倍、約3.3倍増加すると報告されています。したがってCKDにおけるCVDのリスクの低減のためには、1)CKD進行抑制のための直接的治療、2)CKD・CVD発症のリスク因子に対する治療について対応していくことが求められます。2)ではCKDの人は非CKDの人の場合と同様にCVDの一次予防のために、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの冠動脈疾患の危険因子の是正が重要であることに変わりありません。このなかで特に適切な高血圧の治療がCADの一次予防のために推奨されます。血圧管理では中国、アメリカの研究で厳格に降圧された人(中国110〜130mmHg/、アメリカ120mmHg/未満)は標準的に降圧された人(中国130〜150mmHg/、アメリカ140mmHg/未満)に対して主要な脳心血管疾患・心血管死は有意に少なかったとされています。一方、厳格に降圧された人では、急性腎障害(AKI)が多く認められました。したがって厳格な降圧はCVDや総死亡を減少させる一方で、AKI発症リスクを増加させる可能性があります。降圧の下限値は110/70mmHg未満でCVDや腎代替療法(腎移植、腹膜・血液透析)、導入前の死亡が増加することが報告され、その降圧は避けるように推奨されたこともありましたが、高齢な人は個々の状態に影響され、一律的に決められるのではないと考えられるため、具体的な下限の血圧値は現在提案はされていません。非薬物療法による降圧は減塩3〜6mg/日が推奨されます。脂質管理では、CKDの人に対する脂質の低下療法としてスタチン及びそれに追加する薬の併用により、尿蛋白・腎機能悪化の抑制作用、CVD発症予防作用が報告されており、その服用が推奨されています。一方、高トリグリセライド血症(高TG血症)を有するCKDの人ではTGを低下させる薬は、中等度腎機能の低下した人では慎重な投与・服用、高度の腎機能障害の人では、その服用は禁忌とされてきました。しかし近年腎臓に対する負担が少ない薬が上市され高度の腎臓機能障害の人でも禁忌から慎重な投与・服用となっており、その薬の使用が相対的に増加しています。
CKDの人に対する新薬はSGLT2阻害薬や非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)が上市されました。前者はESKD+腎疾患死+心血管死の減少が認められますが、心血管死単独の低減効果は認められていません。したがってCADの一次予防目的での投与は推奨されていません。後者はESKD、腎臓死などの腎臓の複合疾患と心血管系の複合疾患の改善が認められています。しかし、心血管系複合疾患のうち、有意な減少を示したのは心不全のみでした。したがって後者のCKDの人に対する投与はCADの一次予防効果は証明されていなく、現時点ではその投与はCAD一次予防目的としては推奨されていません。
以上、今回は冠動脈疾患を含むCVDの一次予防に対する注意を用する対象病態としてのCKDについて記載しました。