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75歳以上の高齢者高血圧の人の降圧指針

75歳以上の高齢の高血圧の人における目標とする降圧後の血圧は、最近まで収縮期血圧で140mmHg未満が推奨されていました。しかしその血圧値の推奨後、多くの研究を検討した結果、同年代の人の降圧後の収縮期血圧130mmHg未満が、それより高い収縮期血圧に降圧された場合とくらべ、重篤な有害事象の出現を増やすことなく複合心血管疾患(冠動脈疾患、脳卒中、心血管死亡、致死性不整脈・急性心不全など)および全死因死亡、脳心血管死亡を抑制しました。また、これらの研究では降圧を受けた人が糖尿病や冠動脈疾患の既応、脳卒中の既応、慢性腎臓病などの併存疾患あるいはフレイルの有無により、収縮期血圧130mmHg未満への降圧薬の目標を変える必要もないことも示唆しています。したがって75歳以上の高齢の高血圧の人では収縮期血圧を130mmHg未満を目標として降圧することは、生命予後の改善や脳心血管病抑制の観点からは有益とされました。一方この推奨値は介護施設に入所している人や認知症の人など、精神身体機能が大きく低下した高齢の人には適用できません。そのため今回健康・機能状態で区分した75歳以上の高齢の高血圧の人の降圧の推奨がだされました。それを以下に記載します。

カテゴリー1 カテゴリー2 カテゴリー3 カテゴリー4
自力で外来通院可能なADL(生活の質)が保たれた人 外来通院に介助が必要な手段的ADLが低下した人 外来通院が困難となった基本的ADLが低下した人 エンド・オブ・
ライフの人
全身的
状態
健常〜フレイル フレイル〜
要介護
要介護 エンド・オブ・
ライフ
手段的
ADL
保持 低下 高度低下
基本的
ADL
保持 保持〜低下 低下 高度低下
降圧
目標
<130/80mmHg 収縮期血圧
<140mmHg
合併症などにより
<130mmHg
とするか個別で判断する
収縮期血圧
<150mmHg
合併症などによるそれ以上の降圧の要否は個別に判断するが収縮期血圧
<120mmHg
への降圧は避ける
個別判断
(目安は収縮期血圧140〜160mmHg)
その他の方針 非高齢者と
同様の治療方針
収縮期血圧<120mmHgで降圧薬の減量を考慮 降圧薬の減量・中止も考慮(未治療の場合、新たに降圧治療は行なわない)

上記の推奨されたカテゴリー分類は、健康・機能状態の低下した65〜74歳の高齢の高血圧の人の降圧指針にもなります。またカテゴリー表中の手段的ADLとは、買い物、食事の準備、服薬管理、金銭管理、交通機関を使った外出などの、基本的ADLより複雑で多くの労作が求められる活動をいいます。基本的ADLは、更衣、移動、階段昇降、入浴、トイレの使用、食事、着衣、排泄などの基本的な日常生活活動のことです。また、カテゴリー分類に従った降圧の見直しをおこなった場合、心不全や慢性腎臓病など併存疾患の悪化につながる可能性があるため、見直しをおこなった人は自覚症状や自身の検査値の変化に注意する必要があります。慎重な降圧薬の減量が必要ということです。
なお、カテゴリー分類には認知機能に関する評価は記載されていません。一般的には積極的な降圧は認知症を併存した高血圧の人には推奨はされません。認知症の進行とともに手段的ADLや基本的ADLは低下していきます。ただし身体機能が保たれたままADL低下が進行する認知症の人がいます。したがって認知症の人の降圧目標に関しては、カテゴリー分類を参考にして個別に判断することが推奨されています。以上今回は75歳以上の高齢の人の新しく推奨された降圧目標に関して記載しました。