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お知らせ
冠動脈疾患 発症の一次予防としての栄養・食事療法
冠動脈疾患(CAD)発症の一次予防では、血圧、脂質異常症、糖尿病の良好なコントロール、肥満の解消、運動・身体行動を持続しておこなうことはよくご存知だと思いますが、今回は、それらのコントロールを良好にし、ひいては冠動脈疾患発症の一次予防に有効な栄養・食事療法に関して記載します。まず栄養食事療法のポイトを記載します。1)一般的に、総エネルギー摂取量と適正な体重を維持することが前提となり、脂肪エネルギー比率20〜25、炭水化物エネルギー比率 50〜60%に設定することが推奨されます。2)食塩摂取量の目標は 6g/日未満とします。3)脂身の少ない肉を摂取し、加工肉はひかえます。牛乳・乳製品には血清コレステロールを上昇させる飽和脂肪酸とコレステロールが含まれます。一方で、これらはカリウム、マグネシウム、乳たんぱく質の摂取のために有益です。したがって高血圧 や脂質異常症の人では低脂肪・無脂肪乳製品が奨められます。バター、ラード、ココナッツ油は飽和脂肪酸が多いため、これらとこれらを用いた食品の過剰摂取にならないように注意します。飽和脂肪酸は総エネルギー量の7%未満を目標とします。4)魚食はn-3系多価不飽和脂肪酸の摂取のために奨めら れます。5)トランス脂肪酸は はマーガリン、ショートニング、ファットスプレッドを用いた菓子や揚げ物などの加工食品に多く含まれるため、これらの摂取は控えましょう。6)鶏卵の卵黄はコレステロールを多く含むため(およそ220〜240mg /個)、高LDL-コレステロール血症または糖尿病の人では制限を考慮すること(コレステロール摂取を200mg/日未満)、または過剰摂取は健常な人でも控えることが望まれます。魚卵、子持ち魚や小魚あるいは内臓類(レバーやモツ)などはコレステロールが多いので摂り過ぎないように注意しましょう。7)食物繊維は、生活習慣病の重症化予防にはおおむね25g/日以上の摂取が推奨されます。なかでも穀類では、 白米より麦飯、玄米、七分づき米(胚芽精米)、雑穀類、また白パンよりも全粒穀パンのほうが食物繊維を多く含むために推奨されます。野菜・果物は、動脈硬化性疾患の発症予防のために積極的に摂取しましょう、8)果糖を含む加工食品の摂取量は、減らすことが推奨されます。9)日本食の特色である海藻や大豆・大豆製品、そして地中海食の特色であるナッツ類は摂取しましょう。10 )通常の食品から、いずれのビタミンも適正に摂取することが心血管疾患発症のリスクの低減、適正な血清脂質の維持には望ましいです。11)多量飲酒(40〜60g/日以上)はCADのみならず、循環器疾患・癌などの危険因子です。近年の研究から、従来いわれていた少量飲酒のCAD予防効果を否定する結果が報告されています。脳出血の増加やがんのリスク上昇を含むアルコール関連健康障害のリスクを考慮すると、アルコールの摂取は25g/日以下、あるいはできるだけ減らすことが望ましいとされています。
1)に関しては、適正な総エネルギー摂取量と適正な体重を維持することで、総コレステロール(TC)、LDL-コレステロール(LDL-C)、トリグリセライド(TG)の低下とHDL-コレステロール(HDL-C)の増加を認めCAD予防に大切です。
2)による減塩食とすることで、収縮期および拡張期血圧は低下します。血圧の低下はCADや脳卒中リスクを下げることは明らかにされています。
3)、4)、5)では飽和脂肪酸(SFA)は血清TC、LDL-Cを上昇させ、摂取を制限することでこれらの低下が認められます。そして制限することによって心血管疾患発症のリスクは低下します。魚およびn-3系多価不飽和脂肪酸摂取の多い人では、非致死性CAD発症のリスク、あるいは心血管疾患死でのリスクが日本人 では低下することが報告されています。また魚油の摂取を増やすことは、TGの低下にも有効です。トランス脂肪酸の摂取量は総死亡のリスク及び心血管疾患死亡のリスクの上昇と関連すると米国から報告されています。またトランス脂肪酸はLDL-Cを上昇させ、動脈硬化を促進するリポ蛋白(LP(a))を上昇させ、HDL-Cを低下させます。したがってCAD予防のためにトランス脂肪酸の摂取を控えることは大切です。
6)コレステロールまたは卵の摂取量の増加は心血管疾患発症および 総死亡のリスク上昇と用量依存的に関連しています。したがって高LDL-C血症の人は、LDL-Cを低下させるためにコレステロールを、200mg/日未満に摂取することが推奨されます。高LDL-C血症を呈していない人でも、コレステロールの摂取量が増加すればLDL-Cが上昇することは明らかであり、低めに抑えることが望ましいです。
7)食物繊維は穀物、野菜、果物、海藻などに含まれ胃内停滞 時間を延長させることにより、血糖やTGの急な上昇を抑制し、満腹感を保たせて過食を抑制することが期待できます。 またコレステロールの吸収抑制の作用もあり、排便促進作用も期待できます。そして食物繊維の摂取は総死亡、心血管疾患、CAD、脳卒中の予防に有効です。(TC、LDL-Cを低下させる)
8)果糖を含む加工食品(砂糖を含む )の大量摂取はエネルギー摂取の過剰、肥満、TGの上昇、インスリン抵抗性の増悪などを介して、心血管疾患、CAD、脳卒中、体重増加、高血圧あるいは2型糖尿病発症のリスクが高いことか欧米での研究で示されており、その摂取を減らすことが推奨されます。
9)大豆・大豆製品の摂取量が多いと脳卒中のリスクが低いことが、わが国の研究報告であります。(動脈硬化性疾患の発症との関連については、一貫した結果は得られていない)ナッツ類の摂取は、TC、LDL-Cを低下させることが報告されており、ナッツ類を摂取する人で心血管疾患発症、CAD発症、心血管疾患死亡、CAD死亡のリスクが低下したことが報告されています。
10)ビタミンD、ビタミンE 、ビタミンCいずれのビタミンも通常の食品から適正に摂取することが、心血管疾患発症または死亡のリスクの低減に望ましいとされています。サプリメント等の積極的な利用は有効性・安全性から推奨されません。
11)アルコールの多量飲酒はCADや脳卒中の危険因子であり、不定期な多量飲酒もCADのリスクを高めます。また少量飲酒による総死亡 リスク(CAD)の 予防的な効果はないと最近の研究で示されています。したがってアルコールの摂取は、25g/日以下、あるいはできるだけ減らすことが望ましいとされています。
以上今回はCADの一次予防における栄養・食事療法について記載しました。
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