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がん治療関連心機能障害(CTRCD)

悪性心生物(がん)に対する治療の進歩により「がんサバイバー」(がんに罹患し、その後も生存している人)が増加し、またその予後も改善しています。がんサバイバーは、がんの治療を終えた人だけではなく、治療中や経過観察中の人なども含みますが、7割が65歳以上と高齢化が進んでおり、治療に伴って、心血管合併症がしばしば認められます。がんサバイバーは、一般の人よりも心血管合併症の頻度が多く、がんの種類によっては、心血管病ががんサバイバーの死因として最も多い合併症(がんそのものに次ぐ)となっています。腫瘍循環器学とは、がんの治療による心血管の合併症、心血管病をもつ人のがん治療、または腫瘍そのものによる心血管系への影響を対象とした研究です。今回は、そのうち心不全と密接に関連するがん治療関連心機能障害(CTRCD)を中心として記載します。CTRCDの定義は、がん治療中の有症候性の心不全症、もしくは画像診断による心機能低下です。CTRCDの発症は、がんサバイバーの重要な生命予後不良な因子です。したがってCTRCDを発症した人は、心血管リスクとがん治療中止による原心疾患悪化のリスクをふまえ、がん治療医と循環内科医などによるがん治療の継続、中止を含めたマネージメントを行う必要があります。がん治療開始前に、心血管合併症の可能性のあるがん治療を行う人は、全例で心電図、心エコー、バイオマーカー(心不全、心機能障害で上昇する血液中のホルモン、因子)測定を含む包括的な心リスク評価が考慮されます。心血管合併症をすみやかに発見し、適切な治療を行うことは、きわめて重要だからです。すべてのがんを罹患されている人に、一様にこれらのモニタリングを行うのではなく、使用される抗癌剤の種類や罹患されている人の背景をもとにサーベイランスが行われます。心血管リスクとなる因子は、その人の心血管の状態やがん治療の種類によって異なります。考慮されるリスク因子は、抗がん剤の種類(心血管の低リスク〜高リスクとなるものがある)、治療をうける人の要因(60歳以上、冠動脈疾患、高血圧、糖尿病、心筋症、がん治療の既応歴など)です。たとえば、アントラサイクリン系抗癌剤などは、心臓に対する毒性が強く、それらが使用される癌患者の人では、投与期間中にも心エコー、バイオマーカー測定により、CTRCDが早期に発見される可能性があります。症状のあるCTRCDを一度発症すると生命予後が不良となるため、可能な限り心血管高リスクのがん患者の人に対しては、予防的処置を取ることが望ましくまた行われます。種々な薬(ACE阻害薬/ARB、ベータ遮断薬、MRA)の使用に関する研究もありますが、近年では、SGLT2阻害薬(糖尿病の人に使用される薬)により、アントラサイクリン系抗癌剤を使用された糖尿病の人の心不全の発症リスクやCTRCDを発症してからの生命予後が改善する可能性が指摘されています。CTRCDを発した人では治療としてベータ遮断薬、ACE阻害薬/ARBをなるべく早期に開始することの重要性が示唆されています。この場合原則的には、原因をなった薬剤を中止し、上記薬剤の投与を中心として心機能の低下した人(HFrEF)に対する治療に準じた薬物治療が考慮されるのです。近年、CTRCDを呈した人への心臓リハビリテーションが心肺機能、症状を改善し、生命予後によい影響があると報告されており、このため運動耐容能改善のために、心臓リハビリテーションを行うことが考慮されます。欧州の研究では、アントラサイクリン系抗癌剤を使用された人では、CTRCDの発症が9%あり、またその98%が抗癌剤投与終了後1年以内に発症しており、そのため投与終了後1年目をめやすに心エコーやバイオマーカー測定を行い、それらの人に治療を要するかを早期に評価、考慮します。放射線治療をうけた人では、心不全、弁膜症、不整脈などの障害が晩期に生じる可能性があるため、1年以上の上記によるフォローアップが考慮され行われます。
以上今回は、CTRCDを中心として解説しました。