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お知らせ
冠動脈疾患 運動(身体活動)の有用性
生活・職業上の活発な身体活動ないし規則的な身体活動は、冠動脈疾患(CAD)の発症を予防し、死亡を減少させることが、多くの研究で明らかになっています。規則的な運動や身体活動が高血圧、糖尿病、肥満、脂質異常症などの危険因子を軽減し、CADの発症ないし死亡を減少させることから、運動療法の有効性はCADの一次予防、二次予防において確立しているといえます。したがってすべてのCADの人に対して定期的な運動と身体活動の増加を奨めるべきです。なおここでいう身体活動は骨格筋の収縮を伴いエネルギー消費をきたすあらゆる身体的な動きであり、運動のみならず仕事、移動などの日常生活での活動が含まれます。すなわち身体活動=生活活動+運動と定義されます。
身体活動を疫学的にみると、わが国では1日30分以上の運動を週2回以上実施し、1年以上継続している運動習慣がある成人の人は男性で35.9%、女性で28.6%であり、この10年間有意な増減はみられていません。また平均の歩数は年々減少傾向にあり、10年程度の間に500〜1000歩/日減少しています。そのため東アジアの中でわが国は最も運動習慣のない人の割合が多い国となっています。厚生労働省は、健康づくりのための身体活動基準として23メッツ・時/週(1日歩数として8000〜10000歩に相当)を推奨していますが、このことも半数以上の成人の人がその基準を満たしていません。
運動習慣が不十分であることに加えて、日常生活における身体的不活動はCADの危険因子です。日本人において身体的不活動は喫煙、高血圧に次いで3番目の非感染性疾患死亡の危険因子でもあります。わが国では身体的不活動はCADに対して人口寄与危険割合が10%と試算されています。したがって不活動の成人がいなくなると10%のCADの減少が見込めると報告されています。
また身体活動の低下のみならず、座位時間(座位および臥位におけるエネルギー消費量が1.5メッツ以下のすべての覚醒行動)の増加はCADの危険因子です。職場などでの座位時間が長いと心血管疾患、総死亡の増加につながることが報告されています。またテレビを見る時間が長いと心血管疾患やCADによる死亡率は高くなります。したがって運動習慣の増加のみでなく、座位などの不活動時間を減少させることも重要です。
運動によるCADの抑制は維持されます。身体活動量の多い人では非活動の人とくらべて、CADによる死亡、心血管死亡、総死亡が有意に少ないことが示されています。またその効果は家事や職場での歩行などの低強度(1.6〜2.9メッツ)の身体活動でも観察されています。したがって身体活動の増加はCADを含む動脈硬化性心疾患の発症および生命予後改善に有効といえます。
運動による効果は以前にも説明しましたが、以下のように示されています。
降圧:運動には降圧効果があり、中等度から高度の有酸素運動を平均40分/日 3〜4回/週を少なくとも12週間行うと、収縮期血圧で2〜5mmHg、拡張期血圧で1〜4mmHgの低下が示されています。(レジスタンス運動でも、ほぼ同程度の降圧が得られることは以前のWeb欄で記した)
糖代謝:2型糖尿病に対する運動療法は、血糖コントロールを改善し、肥満・内臓脂肪蓄積などを改善することが示されています。たとえば2型糖尿病の人が平均3.4回/週を8周以上(平均18週間)、有酸素運動やレジスタンス運動を行うと、HbA1cが0.66%減少することが報告されています。
脂質:運動療法は脂質プロファイルの改善効果があることが示されています。たとえばCADのない健常な人が中等度(3〜5.9メッツ)/日の有酸素運動を10週〜24ヶ月間行ったところ、運動をしない人とくらべHDL-コレステロール(HDL-C)が10mg/dl上昇することが報告されています。また東アジア人の健常成人を対象とした研究では、有酸素運動は、総コレステロール(TC)、トリグリセライド(TG)を低下させ、HDL-Cを上昇させていました。150分/週以上の運動を実施した研究では、LDL-コレステロール(LDL-C)も低下することが示されています。
以上から身体活動量の増加や習慣的な有酸素運動(レジスタンス運動も含む)により、エネルギー消費量が増加し、内臓脂肪と皮下脂肪がエネルギー源として利用され、腹囲や体重が減少し、メタボ関連因子が改善すると考えられるのです。
運動の種類としては歩行、ランニング、水泳などの有酸素運動と筋肉に抵抗をかける筋力トレーニングでもあるレジスタンス運動がありますが、双方の運動を行うことが望ましいです。(心肺機能、全身の持久力向上←有酸素運動、筋力・筋持久力・筋量を高める←レジスタンス運動)
運動の目標としては、有酸素運動は一般的な指標として自覚症状にもとづくBorg指数で11〜13(楽である〜ややきつい)程度の運動(歩行、サイクリング、水中運動、ゆっくりとしたジョギング)が奨められます。そして中等度以上(3メッツ以上)の有酸素運動を1日30分以上、週3回以上(可能であれば毎日)、または週150分以上実施することを目標とします。若年者や心肺機能の高い人では高強度(75分/週)でも同様の効果が得られる可能性があります。そしてこれらの中等度以上の運動が不可能な場合でも、家事、職場での低強度の身体活動を行うことは、運動を全く行わないよりはCADを予防する効果が期待されるために、低強度の身体活動も推奨されます。
レジスタンス運動は体力・筋力の向上や動脈硬化性疾患の危険因子の改善に有用です。方法としては1RM(重りを1回は持ちあげられるが2回は持ちあげられない重量)の50〜85%(平均的70%)の重量で可能な最大反復回数(平均的には12回程度)の運動を1〜2分の休憩をはさみ、5セット程度(平均的には3セット程度)行い、目標としては上半身・下半身の筋肉を含んだ6〜7種目で、連続しない日程で週2〜3回することです。また運動による効果を減少させないために、座位および臥位時間を減少させることです。(運動以外の時間もこまめに歩くなどにより座位・臥位時間を小刻みに中断するなど)
厚生労働省は運動の実際・生活習慣病対策として今の生活に運動時間を10分加えるプラステンから始め、成人では60分/日、高齢者では40分/日以上の活動的な生活を送ることを目標としています。また運動を行う際は事故防止のため、運動の最初の5分はウォームアップ、最後の5分はクールダウンして、運動による負担を徐々に増減させることは重要です。
一方運動を行う場合、合併症(整形外科疾患なども含む)の評価を行い、運動の制限の必要性を検討する必要があります。心血管疾患のスクリーニングでは、無症状かつ中等度の運動の範囲では必要はありませんが、高強度の運動を行う場合や心血管リスクの高い人、高齢な人などでは主治医によるスクリーニングが必要です。一般的にはV度(180mmHg以上あるいは/110mmHg以上のどちらかがある場合)の高血圧の人では降圧療法の後に運動を行ない、U度(160〜180mmHgあるいは/100〜110mmHg)の高血圧以下の人では脳心血管疾患がなければ運動療法の適応となります。
糖尿病の人では増殖型網膜症以上の人ではジャンプなどの身体への衝撃の加わる活動、頭位を下げるような活動、呼吸を止めていきむような活動は控えることです。自律神経障害のある人は運動に対する循環応答の低下、起立性低血圧などの要因により、運動誘発性有害事象が多いとされています。
そして心血管系の自律神経障害の存在は心血管死や無症候性心筋梗塞の独立した危険因子となるため、その程度により個々の人の運動の可否を決める必要があります。またそれ以外の動脈硬化性疾患の高リスクの人では、無症候性心筋虚血などの潜在的心疾患の可能性があり、突然死や心筋梗塞を生じる場合があります。しかしそのリスクは運動による利益を損なうものではないため、個々の人に応じた運動が奨められます。
以上、記載が長くなりましたが、今回はCADと運動について概説しました。
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