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糖尿病と癌

わが国の糖尿病患者さんの死因の第1位は1990年台からすでに癌になっています。2001〜2010年次の調査では癌による死亡は38.3%で、血管障害による死亡の14.9%を大きく上回っています。癌の部位としては、肺癌(全死因の7.0%)、肝臓癌(6.0%)、膵臓癌(5.7%)が上位を占めていました。他国をみてみると、アメリカでは糖尿病患者さんの死因の第1位は心血管疾患ですが、イギリスにおいては2015年を境に癌による死亡が心血管死を上回るようになっています。

糖尿病患者さんにおける癌罹患リスクは、国内外の多くの研究でその関連が報告されています。一般に、主に2型糖尿病では結腸癌、肝臓癌、膵臓癌、乳癌、子宮内膜癌、膀胱癌などの罹患リスクと関連があり、前立腺癌の罹患リスク低下と関連すると報告されています。日本人における詳細な検討では、糖尿病の全癌罹患リスクは1.19倍であり、男性、女性とも同様に1.19倍でした。癌の種類では、結腸癌(1.4倍)、肝臓癌(1.97倍)、膵臓癌(1.85倍)との関連が顕著となっていました。

1型糖尿病と癌罹患リスクの関連についての報告は少ないですが、他国の大規模な研究解析では、1型糖尿病の全癌罹患リスクは、男性で1.01倍、女性では1.07倍でした。癌罹患リスクの有意な上昇がみられた癌は胃癌、肝臓癌、膵臓癌、子宮内膜癌、腎臓癌でした。一方、前立腺癌と乳癌はリスクの有意な低下がみられました。

糖尿病による癌発生促進のメカニズムとしては、
@インスリン抵抗性(膵臓から分泌されるホルモンであるインスリンが体の中で効きにくくなり、そのため血液中の糖が代謝されにくくなった状態)とそれに伴う高インスリン血症
A高血糖
B慢性炎症とアディポカイン(脂肪細胞から分泌されるホルモンでインスリンの働きをかいして血糖値の調整などをする)
の関与が想定されています。

しかし2型糖尿病と癌との間には、加齢、肥満、低身体活動量、不適切な食事、過剰な飲酒、喫煙といった共通なリスクがあります。したがってこれらを調整しないと、糖尿病患者さんと非糖尿病患者さんにおける癌罹患リスクを比較しても「見かけ上の関連」が生じる可能性があります。実際、これらを調整した日本での研究では、日本人において2型糖尿病が癌罹患に関連するという強い遺伝的な結果は得られませんでした。したがって今後の新たな研究解析によって、癌危険因子としての糖尿病の意義が明らかにされていくことが待たれます。

一方、糖尿病患者さんにおける食事療法、運動療法、禁煙、節酒は癌発生リスクの減少につながる可能性があり、これらの施行は重要です。血糖のコントロールと癌罹患リスクでは、最近、医療機関を受診されるごとのHbA1c(1〜2ヵ月の血糖のコントロールを反映する指標)の変動の大きさが1型および2型糖尿病患者さんの様々な疾病の発症と関連することが報告されています。日本の糖尿病患者さんでの研究では、癌の発症リスクはHbA1cの変動が大きくなるにつれて増大し、最も変動が大きかった人では、最も変動の小さかった人に対してリスクは2.19倍でした。したがって糖尿病患者さんにおける血糖コントロールと癌罹患リスクに関しては、HbA1cの平均値よりも長期間にわたるHbA1cの変動の大きさ(不安定性)が癌罹患リスクと関連している可能性があります。

糖尿病治療薬と癌罹患リスクは少数の薬で異なった報告(リスクがあるとする報告とないとする報告)がありますが、現時点では特定の糖尿病治療薬が癌罹患リスクに影響を及ぼすか否かについては明らかではありません。

癌治療中の糖尿病患者さんの生命予後に関しては、非糖尿病患者さんと比べて、短期・長期生存に関する予後が悪いことが報告されています。その理由は必ずしも明らかではありませんが、高血糖や高インスリン血症の関与、糖尿病の有無による癌治療法の選択や治療効果への影響など種々の要因が想定されています。高血糖の存在は全生存期間が2.05倍の悪化と関連すると解析されています。またHbA1cの上昇(7%以上)が全死亡(1.14倍)、癌による死亡(1.68倍)、癌の再発(1.68倍)を上昇させたことも報告されています。しかし癌治療中の糖尿病の管理において、血糖コントロール状況が生命予後と関連するか、さらに積極的な血糖のコントロールが生命予後や生活の質(QOL)を改善するかに関しては不明です。今後の研究・解析が待たれます。

以上、今回は糖尿病と癌について記載しました。