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冠動脈疾患 潜在性動脈硬化指標のリスクの予測

動脈硬化の潜在的な指標として、頸動脈エコーで測定される頸動脈内膜中膜厚(IMT)、冠動脈CTで観察される冠動脈の石灰化、下肢末梢動脈疾患の評価に用いられる足関節上腕血圧比(ABI)、全身の動脈の硬度の評価に用いられる脈波伝播速度(PWV)およびその関連指標である心臓足首血管指数(CAVI)などが知られています。これらの指標は検査の際の侵襲度が小さく簡便であり、診療の場でもさまざまな目的で用いられています。今回は冠動脈疾患(CAD)の一次予防の観点から、これらの指標が古典的なCADの危険因子を超える上乗せのある予測能を有するかに関して記載します。

1. 頸動脈内膜中膜厚(IMT):わが国でおこなわれた研究(吹田研究)によると、総頸動脈(CCA)の平均IMT、CCAの最大IMT、頸動脈全体(CCA、内頸動脈、外頸動脈)の最大IMTの上昇に伴って、CAD発症のリスクは有意に増加しています。しかし、わが国の一般の地域住民を対象にした研究にはこの一報以外はありません。したがって現時点では、健常者を対象とした頸動脈IMT測定には、CADの発症予測能の改善を目的とした明確な推奨根拠としては十分とは言えないと考えられます。また、糖尿病患者さんを対象とした5つの研究では、CCAの最大IMTなどの上昇により、主要な心血管疾患(CAD、脳卒中、末梢動脈疾患の発症および心血管死亡)の発症リスクは有意に増加しました。しかしこれらの研究はCAD発症に限定されていないことより、現段階では糖尿病などの心血管疾患発症の高いリスクの人でも、CAD発症予測改善を目的とした頸動脈IMT測定の有用性は十分ではないと考えられます。

2. 冠動脈石灰化:アメリカでは、古典的な動脈硬化性疾患の発症リスクが中等度の成人男性では、スタチンによるコレステロール管理などの予防的治療の適応を検討するための補助検査として、冠動脈石灰化の評価を行うことは妥当とされています。しかし、欧米人ではCADの発症率は日本よりも高く、さらに日本人において冠動脈CTによる冠動脈の石灰化の評価が、日本人の古典的危険因子に上乗せしたCAD発症の予測能を有することを明確にした解析はありません。したがってCAD発症の一次予防を目的とした冠動脈CTの実施を推奨する根拠は乏しいと言えます(冠動脈CT検査には放射線被曝の問題もあります)。

3. 足関節上腕血圧比(ABI):わが国の研究(久山町研究)によると、ABI低値な人(0.9以下)では、正常な人(1.00〜1.40)と比べてCAD発症のリスクが有意に高いと報告されました。しかしこの報告では、その予測能の有用性が評価されていません。この研究を含む日本の疫学調査の成績を統合すると、ABI低下は心血管疾患発症の有意な危険因子でしたが、CADに限定した解析は行われていません。ABI測定は、主に下肢の閉塞性動脈硬化症などの末梢の動脈疾患の評価として有用です。しかし、現時点では上記などより、CAD発症予測能の改善を目的とする場合は推奨できるほどの十分な証明はないといえます。

4. 脈波伝播速度:わが国では四肢(上腕および足関節)の血圧測定と同時に脈波測定を行うための機器が普及しており、この機器によりABIと伴に動脈の硬度の指標である上腕・足首間脈波伝播速度(baPWV)が測定可能です。しかし、baPWVの値は血圧の影響を受けるため、血圧の影響を受けにくいCAVIが開発されています。わが国の研究(久山町研究)によると、baPWVが20%上昇すると、心血管疾患全体の発症は1.31倍となりました。しかし、病型別で検討すると、baPWV 20%上昇により、脳卒中発症は1.47倍と有意な上昇でしたが、CAD発症は1.10倍と有意な上昇ではありませんでした。この研究を含む日本の疫学調査を統合すると久山町研究を除き、baPWVの上昇は心血管疾患発症の有意な危険因子でした。しかし、CADに限定した解析はされていません。また、わが国の外来通院中の肥満な人を対象とした研究では、CAVIの上昇は動脈硬化性心疾患(ASCVD)の有意な危険因子でした。しかし、CADに限定した解析はされていません。さらにわが国の多施設の共同研究でも、CAVIの上昇は複合心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、心血管死亡などを含む)の有意な危険因子でしたが、心筋梗塞に限定した解析はされていません。したがって、これらの動脈の硬度の検査は比較的簡便で非侵襲的に行えますが、現時点ではCADの発症の予測を目的とする検査として明確に推奨するほどのレベルにはないと言えます。

以上、今回は古典的なCAD発症リスクを超える予測能があるかについて、1. 2. 3. 4. の検討を概説しました。