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喫煙と心臓血管の疾患

喫煙が冠動脈疾患をはじめとする、心臓脳血管疾患の発症リスクとなることは疫学的検討により明らかとなっています。タバコの煙には、7,000以上の化学物質が含まれており、そのうち心血管系に影響を及ぼす物質には、ニコチン、一酸化炭素、活性酸素種、フリーラジカル、粒子状物質などがあります。ニコチンには依存性があり、また交感神経を活性化させ、血管収縮、血圧上昇、心拍数増加をもたらします。不整脈を誘発するとの報告もあります。一酸化炭素は赤血球のヘモグロビンとの結合能が強く、心筋や末梢組織への酸素供給能を低下させます。活性酸素種やフリーラジカルは血管の内皮の機能障害など種々の機序で動脈硬化を促進します。粒子状物質も同様です。また、喫煙は免疫系細胞から分泌されるある種のサイトカインの産生を促進し、慢性炎症を惹起します。喫煙によるこれらの作用により動脈硬化や血栓形成などが促進され、酸素需要と供給の不均衡と相まって、心血管疾患発症のリスクを上昇させるのです。
リスクとなる疾患群を個々に見ていくと、@心疾患:1日20本の喫煙で虚血性心疾患発症のリスクが1.7〜2.4倍になるとの大規模な研究の報告があります。心疾患全体への影響も検討されており、わが国からの報告では、1日の喫煙量が多いほど心疾患による死亡率は高く、1日20本以内の喫煙者の心疾患死亡率の相対危険度は4.2倍、20本を超えると7.4倍であったとされています。A脳卒中:喫煙は脳卒中のリスクであることは多くの研究で報告されています。病型としては脳梗塞やクモ膜下出血が有意なリスクとなります。(脳出血は有意なリスクとはならなかった)日本における研究では男女とも喫煙は同様な報告がされており、男性においてはアテローム血栓性梗塞やラクナ梗塞の有意な発症リスクとなると報告されいます。B高血圧:喫煙は短時間の血圧上昇をきたし、仮面高血圧(以前のWebで記載)の原因となりますが、高血圧発症の原因となるかは明らかではありません。しかし、高血圧治療は心血管病の予防であることを考えると、高血圧の人における禁煙は必要です。日本人の心血管死のうち男性の約35%、女性の約22%が高血圧と喫煙によるとされていることからも、禁煙は必要なことはお分かりになると思います。C大血管疾患:喫煙は腹部大動脈瘤の発症、動脈瘤径の増大、破裂および死亡のリスクであることは、欧米の研究で明らかにされています。喫煙本数の増加により、腹部大動脈瘤の発症のリスクも増加します。(非喫煙者と比較して)D末梢血管疾患:喫煙が閉塞性動脈硬化症の発症リスクとなることはよく知られています。1日20本以上の喫煙者は、非喫煙者とくらべ4倍の発症リスクを有するとの報告があります。糖尿病の人の大血管病変(冠動脈疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患等)や細小血管病変(網膜症、腎症)の発症進展に喫煙がリスクとなることも明らかにされています。
したがって、禁煙は非常に重要であり、その心疾患に対する有益性は明らかです。禁煙後1年で冠動脈疾患の罹患率が大幅に低下するとの大規模な研究報告があります。日本における研究でも、心筋梗塞発症後禁煙した人は、発症後も喫煙を継続した人とくらべ長期の死亡率が約61%減少したと報告されています。これは心筋梗塞後の人が服薬される薬と同等以上の有益な効果に匹敵することになります。さらに狭心症の人が服用される薬は喫煙によりその作用が減弱し、禁煙により作用効果が回復するとの報告もあります。また喫煙は心不全の増悪や死亡のリスクとなります。心不全の人が禁煙することによりそれらを早期に減少させる効果(2年以下とされている)がおこり、その効果は心不全の人が推奨されている薬物療法と少なくとも同等の効果があることが示されています。脳卒中においては発症リスクは禁煙後2年以内に急速に減少し、5年以内には非喫煙者と同じレベルになるとされています。禁煙は非常に重要です。医療機関の禁煙外来を利用されることもひとつの方法となります。
最後に、受動喫煙と加熱式タバコについて記載します。受動喫煙は冠動脈疾患の発症リスクです。非喫煙者のその発症リスクは、1.2〜1.3倍と報告されています。受動喫煙防止条例が施行されているある都市では急性冠症候群の発症予防効果が示されています。受動喫煙はできるだけ避けることが必要です。加熱式タバコは低減されている有害物質はありますが、低減されていない有害物質も存在しています。依存性物質であるニコチンは紙巻きタバコと同等かやや低い程度の含有が確認されています。そして加熱式タバコの使用により、血圧上昇、心拍数増加、動脈硬化、酸化ストレス増大などが出現します。したがって、心疾患予防の観点からは、加熱式タバコも有害です。
以上、喫煙と心疾患について解説しました。

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